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流れる

1956年、東宝、幸田文原作、田中澄江+井手俊郎脚色、成瀬巳喜男監督作品。

昭和31年度芸術祭参加作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

柳橋の芸者置屋「つたの家」でのお話。

店の女将(山田五十鈴)の娘ながら、芸者にもならず、結婚もせず、家に残っている勝代(高峰秀子)が、芸者のなみ江(泉千代)と支払いの事で言い合っている。

それを面白そうに聞いている若い芸者のなな子(岡田茉莉子)。

さらにその家には、男と別れ、幼い娘の不二子(松山なつ子)を連れて戻ってきたものの、何にもしようとしない女将の妹、米子(中北千枝子)も暮していた。

そんな「つたの家」に一人の中年女性が訪れる。
夫と子供に先立たれ、女中の仕事を紹介されて来た山中梨花(田中絹代)であった。
彼女は、名前が呼びにくいからと、「お春」としてさっそく女将に雇われる事になる。

やがて、お春は、あけっぴろげな芸者、染香(杉浦春子)や猫のポン太、さらに、女将の姉で、染香や女将に金を貸しているので、度々催促に訪れるおとよ(賀原夏子)などを紹介される。

お春は、そこで働く内に、「つたの家」がかつては7人も芸妓を抱えていたのが、徐々に一人二人と去っていき、今や内状は火の車である事実を知る事になる。

そんな「つたの家」に、何時の間にかいなくなったなみ江の叔父(宮口精二)なる男が、今まで彼女が稼いだ金を出せと怒鳴り込んで来る。

弱り目に崇り目、女将はかねてより世話になっていた水野の女将、お浜(栗島すみ子)に相談に出かける。

一方、このまま、母親に甘えていてはいけないと、勝代も又、一人で職を得ようと、職業安定所通いをする事になる。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

男の手を借りず、自分達だけの力で、何とか生き抜いて行こうとする女性達の悲喜こもごもの人間模様を描いた作品である。

まさしく、戦前戦後、日本映画を支えてきた大女優たちの共演が最大の見所となる。

かつて松竹の看板スターであった栗島すみ子が、その座を奪った後輩、田中絹代と共演しているという所も興味深い。栗島は、品の良さを漂わせた風格のある女将を堂々と演じてみせる。
女中役の田中絹代と一対一のシーンもある。

主役の女将を演じる山田五十鈴の存在感も見事だが、いかにもだらしない女を演じる中北千枝子や、一見、明るく要領良く生きているように見えながら、実は女としての寂しさ、脆さを押し隠している芸妓を演じる杉浦春子が素晴らしい。

田中絹代の控えめな演技も印象に残る。

米子と別れた男に加東大介、お浜の甥として若々しい仲谷昇が登場する。

基本的に女性中心のドラマなので、男にとっては退屈するのではないかと思っていたが、観始めると、濃密な女優陣達の演技合戦に釘付けになった。

まさしく名作の名に恥じない逸品である。