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富士に立つ影

1957年、東映京都、白井喬二原作、小川正脚本、佐々木康監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

1805年、11代将軍、徳川家斉の時代、幕府は富士の裾野に調練城の築城を計画、その候補地選定を二人の男に託した。

その二人の問答合戦の結果、優れた計画だと思われた方に、工事の軍師を任せるというのであった。

赤針流の熊木伯典(新藤英太郎)は地元、水野家の家老、長坂洲蔵(市川小太夫)らと結託して、近隣の農地をそっくりつぶして、そこに築城すれば、工事人夫として農民をそのままタダ働きさせる事もできるし、その余った予算を長坂らがそっくり手にする事ができると、悪らつな計画を立てていた。

怒り心頭に達したのは、土地を奪われそうな農民達。
それでは、年貢米を作る事さえかなわなくなり、農民にとって死ねというのに等しい計画だったからである。

彼らは、すでにこの土地に先乗りしているはずだという、もう一人の賛四流、佐藤菊太郎(市川右太衛門)を捜しまわる。

その頃すでに、周到に準備を重ねていた佐藤菊太郎は、医師の松斎(大河内伝次郎)や、玉置右内(山形勲)左之助(北大路欣也)親子、牛飼いの文六(里見浩太郎)、花火師竜吉(堺駿二)ら協力者の力を借りて、理想の土地を愛鷹山から見つけだしていた。

しかし、最後の測量の目安として打ち上げた花火の音が、とんでもない事態を巻き起こしてしまう。

菊太郎を江戸から訪ねて山を登っていた許嫁のお染(長谷川裕見子)が、音に驚いて足を踏み外し、崖から落ちてしまったのである。

事態に気付いた菊太郎らが駆け付けた時には、もう、気を失っていたお染の身体は、三平という、熊木伯典の手下によって、何処へともなく連れ去られた後であった。

やがて、御上より工事奉行を仰せつかった領主、水野出羽守(加賀邦男)の面前で、問答合戦の時が訪れる。

実力では菊之助に勝てぬと判断した伯典は、次から次へと謀略をめぐらせて、とうとう自らが軍師の資格を得てしまう。

工事に駆り出され、苦役を強いられる農民達。
伯典に逆らったとして、次々に処刑される菊之助の仲間達。
そして、当の菊之助自身も、洞窟に生き埋めにされてしまうのであった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

波乱万丈、白井喬二の大長編伝奇小説が原作なので、やはり、一本の映画にまとめてしまうと、どこかゆとりがなく、特に、問答合戦以降の展開はどうしても駆け足の感が強い。

右太衛門念願の映画化だったらしく、確かに、築城合戦というテーマの面白さ、牛車合戦などの時代劇としては珍しい見せ場なども用意されているため、それなりに楽しめはするのだが、何か食い足らなさが残るのも事実。

新人だった里見浩太郎などの扱いは仕方ないにしても、大河内伝次郎や山形勲の印象の薄さはどうだろう?(単なるゲスト扱い)

基本的には右太衛門、北大路欣也親子を中心にすえた、典型的な勧善懲悪の物語なのだが、大魔神でも出現するのではないかと思う程、非道の限りをつくし、全編、これ以上は望めないと思える程、憎々しい悪役に造型されている伯典に対し、菊之助の方がヒーローというよりも、善人過ぎる学者のように描かれているため、今一つ、胸のすくような活躍をしないからであろうか?

御大(右太衛門)にしてみれば、日頃の、あまりにもきれいごと過ぎるヒーローの旗本退屈男とは、またひと味違ったヒーロー像を作りたかったのであろうが、この作品を見る限り、大成功したとはいいにくいように感じる。

あくまでも、右太衛門主演の異色作として楽しむ作品ではないだろうか。