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映画女優

1987年、東宝映画、新藤兼人原作、新藤兼人+日高真也+市川崑脚本、市川崑監督作品。

吉永小百合映画出演99本目にあたり、日本映画の歴史と共に歩んだ大女優、田中絹代の半生を描いた作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

新人女優の田中絹代(吉永小百合)は、若手のホープ、清光監督(渡辺徹)の目に留まり、貧しい生活を送っていた家族共々、京都から、松竹キネマ蒲田撮影所へ引っ越す事になる。

絹代の兄弟2人も、清光の引きにより、助監督とキャメラマンとして、撮影所で使ってもらえる事になる。

しかし、大部屋女優の絹代に注目したのは清光だけではなかった。
新人監督の五生平之助(中井貴一)も、彼女を自分の映画の主演で使いたいと依頼しに来る。

そんな彼女に嫉妬した清光は、彼女と結婚しようと言い出す。

新人女優と女の噂が絶えない監督の結婚など許せないと反対する、撮影所所長、城都四郎(石坂浩二)だったが、2年間だけ二人の同棲を許し、その期間を無事乗り越える事が出来たら、晴れて、正式に二人の結婚式を執り行なってやると約束する。

しかし、売れっ子同士の二人の生活はすれ違いばかり、1年を過ぎた辺りで、清光の浮気が絹代の耳にも達し、結局、彼女は同棲生活を解消、今後、一生結婚はしないと決意するのであった。

そんな彼女の元を訪れたのは、仲摩仙吉(平田満)という俳優志望の青年。
撮影所仲間から、田中絹代が弟子にしてくれるとかつがれてやってきたのであったが、絹代はそんな彼の人柄を気に入り、そのまま付き人にする。

やがて、絹代に名匠溝内健二(菅原文太)から、仕事の依頼が舞い込む。

気負って京都に出かけた絹代だったが、溝内監督の仕事の進め方は、これまで彼女が経験したいかなる監督のやり方とも違った特異なものであった。
戸惑う絹代…。

しかし、野性的な本能を兼ね備えた彼女は、その仕事に全力でぶつかって行く…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

物語は、絹代と彼女の家族との関係などを挟みながら、戦後、再び、彼女が溝内監督と再会し、「西鶴一代女」(1952)の撮影を始めるまでを描いていく。

松竹映画全盛期の様子を描いた作品としては、山田洋次監督「キネマの天地」(1986)もあるが、「キネマ〜」が松竹らしく、やや泥臭い人情劇仕立てになっていたのと異なり、本作は市川崑監督らしい、美的センスやお遊び感覚に溢れながらも、やや醒めたような視線の作風になっているように感じられる。

日本映画の歴史も同時に語られて行き、松竹の過去の名画の吉永小百合による再現フイルムなども挿入されるので、映画ファンにとっては楽しく興味深い内容となっている。

例えば、五所平之助監督、田中絹代主演版「伊豆の踊子」(1933)を再現する吉永小百合は、自身でも同じ作品のリメイク(1963)に主演しているので、2度目の踊子役という事になる。

「愛染かつら」(1938)の再現など、絹代役の吉永さゆりと共演するのは、オリジナルに出演していた本物の上原謙(さすがに老いは隠せないが)である。

他にも、栗島すみ子、小津安二郎、牛原虚彦なども(役者が演じる形で)ちらりと登場する。

清光宏=清水宏、五生平之助=五所平之助、溝内健二=溝口健二、城都四郎=城戸四郎など、中心的な人物名は、差し障りがあるからか、ファンなら難無く分かる程度に微妙に言い換えてある。

この辺の趣向が、映画の知識をある程度持っている人とそうでない人に、この作品の評価を分けさせる要因になるかも知れない。

ある程度、実話に即した形で描かれているので、フィクションのように、取り立てて大きな山場がある訳でもなく、ドラマとしては、どちらかといえば平板な展開であるからだ。

万人向けというよりも、吉永さゆりファン、日本映画に興味のある方などにはお薦めしたい作品である。