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青春の蹉跌

1974年、東京映画+渡辺プロダクション、石川達三原作、長谷川和彦脚本、神代辰巳監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

学生運動華やかりし頃、明星大学のアメフト部に所属する、江藤賢一郎(萩原健一)は、成城に住む富豪(高橋昌也)から、金の援助を受けて司法試験を目指していた。
その娘康子(壇ふみ)とも友達付き合いを続けている。

一方、江藤は家庭教師をしている登美子(桃井かおり)と関係が出来てしまい、そのままずるずると付き合い続ける事に。

やがて、登美子の口から妊娠している事を知らされた江藤は窮地に陥る。

司法試験にも無事合格し、康子との結婚話もまとまり始めた時期だったからである。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

渾沌とした70年代、しらけながらも、自分なりに計算した人生を歩んでいたつもりの秀才青年がぶつかる大きな陥穽、挫折を描く作品。

自分も、かつては賢一郎と同じように援助を受け、司法試験を目指していたが、果たせなかった先輩に森本レオ。

今は獄中にいる元学生運動の幹部だった恋人に、今でも差し入れをしている歌手、北条今日子に赤座美代子。
産婦人科医に久米明、刑事役で下川辰平らが顔を見せている。

しかし、何といっても、本作の中心人物は、桃井かおりであろう。

ぶよぶよとしたその肉体(当時)と、あの独特のベタベタ甘えたような口調で、ショーケンにまとわりつく姿は圧巻で、悪夢のように、観るものの心にヘばり付いてくる。

彼女自身も、水商売上がりで淫蕩な継母との関係に悩んでいる少女なのである。
何不自由ない生活を送っている令嬢の康子とは、対照的な存在である。
基本的に嫌な女と分かっていても、ただ肉体だけではなく、主人公賢一郎が、そんなどこか屈折した彼女にのめり込んで行く気持ちも分からないではない。

賢一郎自身も、自分の進んでいる道に、どこか自信がないのである。
先が見えているようで、実は何にも見えていない。

そんな不安感、虚無感が、「えんや〜とっと、えんや〜とっと、まつし〜ま〜の〜」という自身のけだるいつぶやきとなって、日々の映像に重なって行く。

その不安感、虚無感は、当時の学生運動や日本の先行きに対する気持ちともリンクするのかも知れない。

高校時代は、ゲバ棒を振っていたという賢一郎、それが、今や、そうした運動からは一転距離を置き、白々しくもエリート街道を突き進もうとしている。

そんな自分自身に対する肯定と否定。

それが、彼に、たえず、後ろを振り向くという癖となって現れるのか。

劇中流れる、小坂明子の「あなた」に象徴されるように、漠然とした将来への夢と、愕然とした不安感が混在していたこの当時の雰囲気を知るものには、強烈なインパクトを与えてくれる本作なのだが、同じく未来に対する不安に満ちた現在、この作品は観る人にどのように受け止められるのであろうか?

長谷川和彦、神代辰巳双方の個性が良く出た作品だと思う。