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桃太郎 海の神兵

1945年、松竹動画研究所、瀬尾光世脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

富士山が臨めるのどかな動物村に、海軍に入った若者たちが久々に帰省してくる。

猿の猿吉、きじ、犬のワン吉、そして熊の4人。

猿吉は、弟の三太が兄の海軍帽を拾おうと川に落ちたのを犬と一緒に助けたりするハプニングにも遭遇するが、美しい村の姿に酔いしれていた。

特に、風に舞うタンポポの穂綿には、自分達が秘かに訓練して来た落下傘部隊の思い出が重なり感慨深気。

その頃、南方の島では、現地の動物たちが格納庫作りに勢を出していた。

そんな島に、偉い人を乗せたらしい飛行機が日本からやってくる。
降り立ったのは、軍服姿の桃太郎と件の猿吉、きじ、ワン吉たち。

好奇心いっぱいの現地の動物たち相手に、日本語教育が始まる。

なかなか巧くいかない授業を見兼ねた猿吉が、持っていたハーモニカを吹きはじめる。

「あいうえおの唄」である。(古関裕而作曲のこの歌は名曲)

動物たちは楽し気に口ずさみ始める。

いよいよ、落下傘部隊出撃の朝。

猿吉たち攻撃隊メンバーは、日の丸弁当を各自渡され、輸送機に乗って、鬼が島に攻め入って行くのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

海軍省の依頼で作らされた、戦時中のプロパガンダ目的のアニメ映画。

公開当時、肝心の子供達を含め、のんびり映画等観ている人等ほとんどいなかった中、後にアニメ製作に乗り出す事になる、若き日の手塚治虫が観ていて感動したと伝えられる話は有名である。

長い間紛失していたとされていたこのフイルムが発見された時、その手塚氏と故荻昌弘氏との対談を加える形で、テレビの深夜枠で放送した事があった。

しかし、今回、改めてこの作品を観てみると、当時のテレビ公開版は、かなり省略されていたものだった事がわかる。

見覚えのないシーンが多数あったからだ。

特に、ゴア王国が西洋人の海賊たちによって侵略されてしまうエピソードを描いた影絵のシーンは初見であった。

この前作に当る「桃太郎 海の荒鷲」(1942)では、敵である鬼を攻撃する動機が明らかにされていない。

それが、この作品では明確にされているのだ。

西洋人によって占領された国の奪回である。
実は本作の背景にあるのは、オランダ領インドネシアでの空挺隊攻撃の話。

一見、無邪気な動物ファンタジー風の形になっているものの、描いている内容を冷静に考えると、救出を名目とした侵略行為の美化であり、素直に笑えないものがある。

現地の動物を肉体労働に駆り立てたり、日本語を強制的に覚えさせている姿を、楽し気な様子に描いているのを今観るのは正直つらい。

明らかに欧米人を模したとしか言い様のない情けない鬼(ほうれんそうの缶詰めを落としてうろたえるブルートの姿もある)を観るのも、その鬼に対し強圧的な態度で迫る桃太郎の姿を観るのも哀しい。

しかし、作らされたアニメ関係者には何の罪もない。

彼らは、軍から命ぜられるままに、自分達ができる最良の仕事を提供したのである。

そうした背景をきちんと理解した上で、弟思いの猿吉、三人のひなを思うきじ、年老いた両親を思うワン吉など、人間のイメージが重なるキャラクターたちの魅力や、叙情的で美しいシーン、可愛く楽しいシーンなどを素直に楽しみたい作品である。