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夫婦善哉

1955年、織田作之助原作、八住利雄脚本、豊田四郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和7年頃の、大阪、船場の物語。

維康(これやす)商店の若旦那、柳吉(森繁久彌)は、妻が病気のため2年も実家に帰っている間に、仕事もせずに、芸者上がりの蝶子(淡島千景)とねんごろの関係になり、とうとう二人して熱海へ駆け落ちしたのを、中風で寝たきりの父親(小堀誠)に知られ、勘当を言い渡される。

熱海で大地震にあい、大阪に舞い戻った蝶子は、そんな柳吉を何とか一人前の男に育てようと、一旦は足を洗った芸者の仕事に戻り、自ら働いて少しづつ金をためて行くのだが、その貯金を全て、柳吉が遊びに注ぎ込んでしまうという有り様であった。

やがて、維康商店の方では、柳吉の妻の死後、柳吉の妹、筆子(司葉子)が養子の京一(山茶花究)をもらい、もはや、柳吉が後継ぎとして、店に呼び戻される気運は薄れて行く。

それでも、なおかつ、実家への甘えと未練を捨て切れず、幾度も金の無心で食い繋いできた柳吉は、蝶子と共に思いつきの客商売を始めるが、そんな最中、不摂生が祟り、腎臓を患い入院してしまう。

自分の母親(三好栄子)も子宮癌で亡くした後も、必死に柳吉を支え続ける蝶子だったが、柳吉の父親が亡くなった際、当然、正妻として葬式に参列できると信じ込んでいた彼女の気持ちは、柳吉の冷たい態度によって打ち砕かれてしまう。

そこに至って、蝶子は長年の自分の献身が、愚かな幻想に過ぎなかったな事にようやく気付くのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

お坊っちゃん気質がぬけ切れず、どこまでいっても生活能力皆無で恥じないダメ男を森繁が、さらに、そんなダメ人間に見切りをつける事ができず、とことん尽くし抜く、幸薄い女を淡島千景が、共に見事に演じてきっている。

森繁は同じような生活無能力者を「雨情」(1957)でも演じている。

それを固める脇役陣達の演技も素晴らしく、ずる賢く柳吉に取り入る番頭、長助の田中春男、秀才ながら異常な潔癖性の京一を演ずる山茶花究、蝶子の面倒を見る置き屋の女将、おきんの浪花千栄子、貧しい天婦羅屋をやっている蝶子の父親、種吉を演ずる田村楽太などをはじめ、登場する役者全てが見事な存在感を見せつける。

さらに、法善寺横町界隈を含め、当時の大阪の町を再現したセットも見事というしかなく、一画面ごとの画面構成も奥行きがあり素晴らしいの一言。

脚本も演技も美術も、全てが超一流の仕上がりになっている。

まさしく、日本映画黄金期を飾るに相応しい傑出した名作の一本であろう。

劇中登場する、自由軒のライスカレーや、タイトルにもなっている夫婦善哉が、食い道楽の大阪らしく印象的。