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恋すがた狐御殿

1956年、宝塚映画、北条秀司「狐と笛吹き」原作、笠原良三脚本、中川信夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

遠い昔、京の都でのお話。

1年前に愛妻まろや(美空ひばり)を亡くした哀しみをいまだに引きずっている春方(中村扇雀)は、 笛を学んでいる師匠の三位春雅(柳永二郎)に、演奏に生気が感じられないと注意される。

春雅の娘、あけみ(扇千景)も、そんな春方の様子を心配しているのであった。

笛の稽古を終え、帰宅途中の春方は、小松原という所で、子供達に捕まり虐められている子狐を見つけ、その子供らに金を与えて助けてやる。

帰宅した春方は夜になるのを楽しみにしていた。
実は毎月、妻の命日の4日になると、不思議な事に屋敷内に置かれている琴がひとりでに鳴り出すからであった。
春方は死んだまろやが舞い戻って弾いていると思い込み、過ぎし日を思い出しながら一緒に笛を奏でるのであった。

そんな怪異を下男の平八(堺駿二)は薄気味悪く感じていた。

その頃、狐の国の大きな館では、母狐のおこん(浪花千栄子)が、ともね(美空ひばり-二役)に、春方に助けられた妹のかつねに代わり、人間界にお礼奉公に出向くように命じていた。

条件は次の満月の夜までに戻る事。
決して、人間と肌身を合わせてはならない事。それを破れば、両者とも死んでしまうというのであった。

さらに、ともねには許嫁の約束をしている七太郎(和田孝)という存在があった。
その父親に問いつめられたおこんは、ともねが戻った満月の番に、すぐさま七太郎との婚礼をあげると約束してしまう。

春方は、突然出現した亡き妻そっくりのともねに、驚きながらもたちまち虜になって行く。
何かと春方の世話を焼くようになるともねを心配して、おこんは監視係のおいね(竹屋みゆき)を春方の屋敷に差し向ける。そのおいねを一目で気に入ったのは平八であった。

さらに、ことねの事を案ずる七太郎までが、人間界に時々やってきては、春方の屋敷から何かと物を盗んだりするいたずらを始める。

そんな中、筑紫の国から、かつて春方と共に「笛の三羽烏」と呼ばれていた盟友でライバルの秀人(沖諒太郎)が、任を解かれ京に戻って来る。
「三羽烏」のもう一人、不二丸(山茶花究)は、今は京の都を夜な夜な騒がす、野武士の首領に成り果てていたのであった。

一緒に暮す内に、春方に恩義以上の感情を抱くようになっていたともねは、ある日、件の夜叉の不二丸率いる野武士たちに誘拐されてしまう。不二丸もまた、かつて、まろやに思いを寄せていた一人であったのだった。
七太郎から知らせを受け、ただちに助けに駆け参じる春方。
激しい剣劇の末、何とかともねを救い帰る事に成功した春方であったが…。

やがて、帝の御前で笛を披露する若者が一人選ばれる事になり、春方と秀人は互いに猛練習を開始するが、結局、師匠の春雅が選出したのは秀人の方であった。

春雅は、落胆する春方を一人呼出し、お前の笛には妖気が漂っている。ともねという妖し気な女を取るか、笛を取るか、どちらかにしろと言い聞かせるのだった。

それを陰で盗み聞いていたともねは懊悩する。
帰宅予定の満月の夜が迫っていたのである…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

いわゆる「狸御殿もの」と呼ばれる一連の時代劇ファンタジーの流れを汲む一編であるが、原作があるだけに、喜劇色よりもむしろ、ややシリアスなメロドラマに近い内容になっているのが特長。

ただし、当然、ひばりお得意の唄はふんだんに盛り込まれている。

宝塚映画だけに、豪華で華麗なセットも組まれ、白黒作品ながら夢のようなシーンが各所に用意されていて楽しめる。
娯楽作品とはいえ、一画面ごとの構図などにもしっかりした美意識が感じられ、安心して観る事ができる。

実は本作、旧宝塚映画の撮影所が消失してしまい、その後、宝塚遊園地の隣に作られた新スタジオでの第一回作品なんだそうである。

本作では、慎み深く、春方に思いを寄せながらも、自らは身を引いて、ともねに春方を譲るあけみ役の扇千景だが、現実では春方=二代目扇雀(現、中村雁治郎)とこの後、1958年(昭和33年)に結婚しているのが興味深い。

ひょっとすると、この作品での共演がきかっけになったのではないかと想像されたりもする。