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霧の旗('65)

1965年、松竹大船、松本清張原作、橋本忍脚本、山田洋次監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

熊本から単身上京してきた柳田桐子(倍賞千恵子)は、日本でも指折りの弁護士と呼ばれる大塚欽三(滝沢修)の事務所を訪ね、強盗殺人の罪で裁判中の兄、正夫(露口茂)の弁護人になってくれと頼み込むのだが、うちは弁護料が高額だし、今多数の事件を抱え込み時間もないからと、にべもなく断られる。

貧しいため規定の弁護料は払えないものの、あきらめ切れない桐子は、帰郷前に、何度も事務所に電話を賭け懇願するが、すでに大塚の所在はつかめなくなっていた。

じつはその頃、当の大塚は、伊東で、顧問弁護士を引き受けているフランス料理店「みなせ」のオーナーで、今では愛人でもある河野径子(新珠三千代)とゴルフを楽しんでいたのであった。

桐子の電話を近くで聞いていたのが、雑誌の編集者、阿部幸一(近藤洋介)であった。
彼は、彼女の言葉から事件に興味を持ち、桐子に詳しい話を聞こうと近づくが相手にされない。

時が過ぎ、大塚は一通の葉書を受け取る。
桐子からであった。
一審で死刑判決を受けた兄が、二審への控訴中、獄死したと言う知らせであった。
気になった大塚は、自分なりに事件の資料を取り寄せ、独自の調査を始めるが、やがて、事件の矛盾点を発見する事になる。

そうした中、阿部は、同僚と共に訪れた銀座のバーで、ホステスとなっていた桐子と再会する。

その桐子は、ひょんな事から、世話になっている先輩のホステス信子(市原悦子)の依頼を受け、彼女の愛人である「みなせ」のボーイ長杉田健一(川津祐介)の行動を調べるため、彼の後を追うのだったが、そこで彼女が見たのは、死体になった杉田と、その現場で怯えている河野径子の姿であった。

その場では、径子の無罪を証言すると約束した桐子だったが、検察官の前では、そんな事件現場など全く知らないと言い出す…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

何とも切なく物悲しい復讐譚である。

あの山田洋次監督の作品であるのが、今の感覚では意外に思われるかも知れないが、彼は、野村芳太郎監督の座付き脚本家みたいな事をやっていた事もあり、「砂の器」などミステリーの脚本を何本か書いている。

この作品は「下町の太陽」(1963)を作った山田監督が、ハナ肇主演の馬鹿シリーズなどと同時期に作ったもので、監督自身の方向性がまだ定まっていなかった時代の作品といえるかも知れない。

郷里の熊本で、桐子ら兄弟と暮している母親らしき人物は、「男はつらいよ」シリーズのおばちゃんこと三崎千恵子である。

桐子の兄役を演ずる露口茂は、後年の「太陽にほえろ!」の山さんのイメージとはかなり違い、一瞬誰なのか分からない程だ。

阿部の勤める雑誌社の編集長を演じる金子信雄も、島田検事を演ずる内藤武敏も、まだ髪の毛ふさふさの時代である。

貧しい少女を演じる倍賞千恵子の、線が細く、いかにも薄幸そうなイメージが、妙にリアルで印象的である。