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初めての愛

1972年、東宝映画、井手俊郎+森谷司郎脚本、森谷司郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

雨に煙る横浜の港が見えるホテルの中、全裸の加藤悠一(岡田祐介)が人妻の夏子(加賀まりこ)と戯れている。

函館の裕福な牧場に育ち、大学受験のため上京してきた悠一だったが、今は、受験をあきらめ、自動車修理工をやって働くようになっていた。
夏子とは、そこで出会ったのである。

夏子と別れた後、少年たちの喧嘩騒ぎを止めに入った悠一は、日本語のうまい外国人少年と取っ組み合いになる。
そこに現れたのが、近所の小料理屋「かもめ」の女将、芳子(草笛光子)だった。

彼女は、悠一を自分の店の隣の喫茶店「さんとす」に案内する。
昔は外国航路の機関長だったマスター(加東大介)に頼まれて留守番をしているのだという。
芳子は、そんなマスターに気があるらしい。

ある日、予備校時代の級友が東大に無事合格したと聞かされた悠一は、浪人時代からの友人で、今も同居している徹(志垣太郎)と、その恋人、早苗(服部妙子)らとボウリングをやって憂さを晴らす。

そんな悠一の事を心配していた徹は、アルバイト先のホテルで受付をしている少女、坂本光代(島田陽子)を見かけ、帰りがけ声をかける。

お花の先生をしているという叔母(加藤治子)と同居しているという光代を、親しくなった徹と早苗は、後日、ボウリング場で悠一に紹介する。

その後、急速に接近する悠一と光代だったが、光代の父親というのが、あの「さんとす」のマスターだった事実を悠一は後日知る事になる。
頑固者のマスターは、大学へも行かずふらふらしている悠一の事を嫌っていたのだった。

当の悠一は、いまだに夏子との仲も清算できないで、そのままズルズルと付き合っていた。

そんな事とは知らない純情な光代は、何時しか悠一に心を奪われて行くようになる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

学生運動は華やかりし頃、横浜を舞台に、未来を見失い彷徨う青年と、一人の純な少女の出合いと別れを、小椋佳の甘く切ないメロディと共に描いている。

島田陽子にとっては、劇場版ヒーローもの「ゴーゴー仮面ライダー」(1971)に次ぐ、本格的な映画初主演作といっても良い作品だろう。

どちらかといえば、小椋の曲が最初にあって、そのイメージに合わせて物語が組み立てられているようにも見える。特に、「少しは私に愛を下さい」は切なく胸に迫る名曲ではないだろうか。
途中、海辺を走る白い水着の少女のイメージ映像として、栗田ひろみが登場したりもする。

岡田祐介現東映社長は、冒頭の全裸シーンで鍛えられた身体を披露するだけではなく、函館での回想シーンでは、さりげない乗馬技術も見せてくれる。
彼が、本当にいい所のお坊っちゃんである証拠であろう。

デビュー作「赤頭巾ちゃん気をつけて」より、演技が様になっているのが分かる。

加賀まりこは、当時流行の超細眉顔で、会う度に、悠一に毒の入った酒をチョイスさせる、こちらも生きる事に疲れたような人妻を見事に演じている。

志垣太郎は真っ白な歯も爽やかな好青年、島田陽子は、どこか内気ながら、超ミニスカートにエクボがまぶしい18歳の女学生を好演している。
途中、島田陽子が、叔母である加藤治子と一緒に入浴するシーンがあるが、おそらく背中の方から写したカットは吹き替えだろう。

ラスト近く、悠一の父親役として、久米明が登場している。

悠一が着る真っ赤なカーディガンや縞模様のパンタロン、哀愁漂う奥村チヨのヒット曲「終着駅」、早苗の郷里が三里塚であるなど、強烈に70年代を想起させる要素があちこちにちりばめられていて、当時を知る者にとっては懐かしさを、知らない者にとっては新しい魅力を発見する一つの手がかりになる作品ではないだろうか。