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福耳

2003年、「福耳」製作委員会、冨川元文脚本、瀧川治水監督作品。

「タイムマシン」…、劇中に登場する高級老人ホーム「東京パティオ」内にある喫茶室兼レストランの事で、主人公、里中高志(宮藤官九郎)が働く事になる職場でもある。

その名前が象徴するように、そこにはかつての日本映画黄金時代を支えた名優(どちらかというと名脇役)たちが揃っている。

坂上二郎、谷啓、横山通乃(道代)、宝田明、多々良純、千石規子、そしてわれらが青大将こと田中邦衛…、他方面に活躍されておられる方達ばかりだが、ヒロインが司葉子という事もあり、何となく「60年代東宝映画」のイメージが強い。(作り手達も、その辺を意識したキャスティングなのだと思う)

その顔ぶれを観ただけで、長い間帰っていなかった故郷に久しぶりに帰り、年老いた両親を見た時の気持ちに似たものが込み上げて来る。

まだまだ元気であるその姿を喜ぶと同時に、若かった頃を知っているだけに、その変貌振りに戸惑い、何がしかの寂しさも禁じ得ない…そんな気持ちである。

物語の発想自体は、何だか円谷プロの1992年劇場作品「勝利者たち」に似ている。

「勝利者たち」では、三國連太郎、丹波哲郎を中心に、今では年老いた職人達、ハナ肇、大滝秀治、佐藤允、宍戸錠、長門勇らがゲートボールの試合に出場する…というものだったが、やっぱり司葉子が老人達のマドンナ役なのである。(司さんは、この「勝利者たち」以来の出演らしい)

話の構造は違うとはいえ、基本的に作品の大きな見所が、懐かしい名優達の健在振りを見せる…という点にある事は同じである。(ただし、本作には、青春映画としての側面もあるのだが)

そして、両者とも、表面的には娯楽作品の形を借りながら、その背後には当然「老人問題」というテーマが含まれている。「老人の孤立・孤独感」や「老人と恋」という切り口も共通する。

ただ、この「老人問題」という点に関しては、正直、両作品とも、あまりにもきれいごと、上っ面だけの印象が強い。
そうはいっても、あまりにも、その辺を掘り下げてしまうと、重い社会派作品になってしまい、笑えない事になるので難しい所であろうが…。

さて、ではコメディとしての本作はどうなのかといえば、これは観る人の経験によって評価が分かれる所であろう。

コント55号時代の二郎さん、クレージーキャッツ時代の谷啓、一連の東宝コメディ映画時代の横山道代(劇中、宝田明が「この、バカ女!」と彼女を罵る所など、横山道代のかつてのバカ女キャラを知る者にはたまらなくおかしい)、「若大将」時代の邦衛さんなどを良く知っている人と、そうではない人では、当然受け止め方は全く違うはずである。(どちらの評価が正しいとか、間違っているという事はないと思う)

例えば、邦衛さんなどを、テレビの「北の国から」でしか知らない世代の人にとっては、この作品のおとぼけ演技は衝撃的であるはずだ。

しかし、彼らの全盛期を知る者にとっては、二郎さんが「飛びます!飛びます!」とか谷さんの「ガチョ〜ン!」といった、お決まりのギャグくらいしか披露しなかったり、宝田明が舞台の「ミスター・レディ ミスター・マダム」の延長上のようなキャラでしか登場しないのは寂しいし、年齢的な制限を考慮しても、もっと彼らの面白さを引き出せなかったものかと悩んでしまう。

主役のクドカンに関しては、彼の演技者としての素人臭さと、それをサポートする側の邦衛さんの体力的限界という、両者のハンデを考慮した上での、鏡コントとか一人芝居のような「分かりやすい初歩的なお笑い芸」中心の構成という事になったのだろうし、それはそれで、一応成功しているといって良いだろう。

浅草という舞台設定も味わいがあって良いし、一応、ハートフルファンタジーとしては、それなりに楽しめる作品にはなっていると思う。

個人的に、怪し気な祈祷師役で登場する六平直政には笑った。