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銭形平次捕物控 幽霊大名

1954年、大映、野村胡堂原作、八住利雄脚本、弘津三男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

北町奉行吟味与力、笹野新三郎から、平次(長谷川一夫)は不思議な事件の依頼を受けていた。

江戸の町に、旗本ばかりを狙う辻斬りが横行し始め、それを追い詰めんと、若い旗本らが集まって罠にかけた所、その辻斬りは、三万八千五百石の金森兵部少軸頼兼の屋敷に逃げ込んでしまった。
それからは、誰彼の見境のない辻斬りになってしまう。

さらに、金森家の中屋敷には遠眼鏡が設置してあり、夜な夜な、美しい町娘を見つけては誘拐しては、屋敷内で酒池肉林の毎日だという噂もあるとの事。

さらに、時々、頼兼の幽霊が徘徊する様を見たものさえあるというのであった。

頼兼の治める藩は美濃郡上といい、長年の圧政で国は荒み、民衆は餓えているという。
そうした国元の惨状を御上に悟らせまいと、金森家では「武蔵野の茶入れ」とやらを献上しようとしているらしい…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

事件のあらましは冒頭で語られてしまい、その後も、特段不可解な謎があるという訳でもないので、謎とき趣味は希薄である。

問題の幽霊のような頼兼の正体も、途中であっけなく明かされる。

本作の趣向は、捕物帳というよりも、全盛期の「旗本退屈男」などに近い荒唐無稽な伝奇ロマンといった所か。
お静を誘拐され、それを取り戻さんと、頼兼の屋敷に乗り込んだ平次がそこで見たものは…。

沖縄風の音楽が流れる中、異国風の雰囲気に設えられた大部屋には大勢の半裸の女性達が…。
その女性達の姿をうつろな目で眺めては、もっと脱いで見せろと下びた事を命じている頼兼がいた。
こういう野卑な見せ物趣味は東映時代劇ではありそうだが、大映作品では珍しいのではないか?

この頼兼を演じているのが若き市川雷蔵である。

雷蔵が、女にも手が早い眠狂四郎として登場するのは1963年から。
この当時は、まだ、線の細い少年顔の雰囲気が残っている時代である。

さらに、途中から、平次たちを助ける、たよりという可愛らしい少女が登場してくる。
これが少女時代の中村玉緒である。

平次は、この作品でも、事件に関わる女から思いを寄せられる役。
女房、お静とその女との、平次をめぐる女同士の心理的対決シーンもある。

さらに、本作での八五郎役、渡辺篤も、大車輪の活躍で、絶妙のおとぼけキャラクターを作り上げている。
「平次親分にとけない謎なんてあるもんか、嘘だと思うなら、野村胡堂先生に聞いてみろってんだ!」などという、楽屋落ちまで披露しているのがおかしい。

後半は、「武蔵野の茶入れ」の在り処をめぐる判じ物の謎ときがサスペンスになるのだが、基本的に特殊な知識がなければ到底解けない種類のものであり、何故、そんな基本的な事に平次が10日近くも気付かないのか不思議である。

この作品、このように、ストーリー的には、あまり見る所はないのだが、技術面では驚くべき所がある。

二役を演じる役者が一緒に同じ画面に映っている、いわば合成シーンが3ケ所ばかりあるのだが、これが、どう観ても合成に見えないくらい完璧なのである。

白黒作品という事もあるのだろうが、こんな見事な合成シーンは今まで観た事がない。
一体、どうやって撮影しているのかと頭をひねってしまう。

平次ものとしては凡庸な印象だが、色々、興味深い見所はそろっている作品だと思う。