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銭形平次捕物控 人肌蜘蛛

1956年、大映、野村胡堂原作、小国英雄脚本、森一生監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大雨の中、佃島から島破りして川を泳ぐ二人の囚人。

翌朝、男の水死体が川岸に打ち上げられ、三輪の万七が検分すると、死体の背中には大きな蜘蛛の刺青、そしてその懐からは、広重の東海道五十三次の三島の宿に白い龍があしらった錦絵が見つかる。

逃げた囚人の名は松五郎と新吉、その新吉の背中にも蜘蛛の刺青がある事が知られていた。

そんな中、焼き物の行商人、新次郎(市川雷蔵)と名乗る男が、江戸に上る道中、上総屋の寮に住むお絹(近藤美恵子)という何やら物憂げな様子の女中と出会う。

江戸は祭りの準備の最中であったが、折からの米不足で、首を括る米商人が続出していた。
お品(山本富士子)と一緒に、やぐらの上で太鼓を練習中の平次(長谷川一夫)を、女房のお静(阿井美千子)が呼びに来る。お品も明るくお静に会釈する。
そんな様子を、八五郎(堺駿二)が不思議がる。
お品は、かつて、平次の女房になるといわれていた相手だったからである。

水死体の正体は宝井草庵という男で、かつて、松五郎や新吉の仲間だった男。
たまたま島送りになったのは、松五郎と新吉の二人だけだったのだが、その仲間と目されていた中には、何故か事件当時、罪を免れ、今だに豪勢な暮らしを続けながら、島送りになった二人の身内の面倒すら見ない薄情な人物達がいた。

上総屋喜兵衛、尾張屋伝衛門(東野英治郎)、伊勢屋久助、そして、板倉屋おれん(入江たか子)…。

彼らは、材木奉行からお蔵奉行へと転身した松下下記と手を組み、うまい汁を吸ってきた仲間達。
前回、罪を免れたのは、当時北町奉行であった、根岸肥後守が松下の義理の兄であった為、裏から手を廻す事が出来たのであった。

祭りの前夜、お絹を連れて江戸に到着した新次郎は、どこも満員で断られる中、柊屋という一軒の宿に無理をいい、何とかお絹だけ泊めてもらう事が出来たのだが、自分は取引先の尾張屋で泊めてもらった翌朝、再び、柊屋へお絹を迎えに行くと、そんな女を泊めた事はないと、宿中の人間が否定するではないか。
驚いた事に、お絹が前夜過って破った障子の痕もないし、宿帳に新次郎自身が書いたはずの部分がそっくり消えている…。
おまけに、昨日自分が泊めてもらった尾張屋までが、泊めた事実はないといいだすのだった。

柊屋の騒動の中、着物がはだけた新次郎の背中に、蜘蛛の刺青をはっきり見て近づいた平次だけは、そんな彼のいう事を信じるといいだす…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

大勢の群集と大きな山車を使った大掛かりな祭りの様子を背景に、米買い占めの陰謀を追い詰める平次の姿を描いて行く。

東野英治郎の堂々たる悪役振りも見事だが、本作の見所は、何といっても新次郎を演じる市川雷蔵であろう。
準主役級の扱いになっている。

お絹の事を心配する上総屋の下女お千代役で、若き中村玉緒がちらり登場しているのも見所。

腹を空かせている八五郎が、最初から最後まで、飯にありつけないという趣向も楽しい。

事件終了後、お品が「あたしゃ、平次親分の稼業の上の女房さ」と子分に告白する所も興味深い。
お品の父親で、孤児だった平次(本作中、自分は両親の顔を知らないと平次が告白するシーンがある)を一人前に育て上げた親代わりの目明かし利助は、本作ではすでに亡くなっているらしい。

事件の黒幕は、最初にほぼ明かされているので、平次の謎ときは、柊屋でのお絹失踪のからくりとか、錦絵の判じ物などが中心となる。

一応、平次の事件解決のリミットは、北町奉行が、また根岸肥後守に変わる翌日の九つまでに…という趣向が用意されてはいるが…。

これといって大傑作というものが見当たらない平次ものとしては、本作もまた、平均的な出来の作品というべきであろう。