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透明人間と蠅男

1957年、大映東京、山野利一原案、高岩肇脚本、村山三男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

夏のある日、福岡から東京に向けて飛んでいたダグラスDC48機の機内では、ちょうど、スチュワーデスが客にアイスクリームを配っている最中だった。

九州の講演から帰る途中だった早川博士(南部章三)が受け取ったアイスの包みを開けかけた時、後部のトイレ付近に戻ったスチュワーデスは、床に倒れている男を発見、悲鳴を上げる。

タイトル

羽田に到着した関係者のうち、被害者の隣に座っていた早川博士も、一応参考人として空港に引き止められていたが、九州で心臓発作を起こしていた事もあり疲労が見えたので、助手の月岡博士(品川隆二)と、娘の早川章子(叶順子)が迎えにくる。

その月岡に声をかけてきたのは、大学時代の同級で、今回の事件を担当する事になった若林捜査一課長(北原義郎)だった。

被害者の身元が判明し、渡辺建設社長渡辺良一と分かったが、会社は順調で、自殺するような動機は見当たらない。

死因は、背中から刺された刺し傷によるもの。

他殺に違いなかったが、事件当時、機内のトイレ周辺に被害者以外の人影を見かけたと言う証言は得られなかった。

捜査会議では、この不可解な事件に関し、総監(見明凡太朗)が刑事部長(伊東光一)から最近の未解決事件を報告させていた。

銀宝堂事件などを合わせると、6件、被害総額3000万円に及ぶ未解決事件があった。

総監は、それらの未解決事件が皆、同一犯ではないかとの疑いを口にする。

若林は、これらの未解決事件の共通点は、被害者たちが皆恐怖の表情を浮かべているのに、抵抗した後がないと言う事だと指摘、総監も、その相矛盾する状況が、事件解決のヒントになるかもしれないと頷く。

その後、若林は再び早川博士の研究所を訪れると、今回の事件は透明人間でもない限り不可能だと冗談を言うと、聞いていた早川博士は急に真顔になる。

実は、宇宙線の研究の途中で偶然発見した「不可視光線」を浴びせれば、物体が透明になる事が分かったと言うのだ。

早川博士の勧めで月岡が研究所に若林を案内、助手の杉本(鶴見丈二)も紹介した後、コップに光線を浴びせ、透明化する実験を見せてやる。

若林は人間にも応用できるのかと聞くが、動物実験はまだしていないと月岡は否定、しかし、杉山は、これが実用化されれば犯罪捜査にはうってつけだと興味津々の様子。

後日、また銀行が襲われ、警備員が背後から刺され死亡、520万円が強奪されるされる。

またしても、あらゆる扉が施錠されていると言う完全な密室状態だった。

金庫室を調べていた若林は、「ナイトクラブアジア」のマッチを拾う。

刑事の葉山(浜口喜博)が、「アジア」のマスター黒木(春本富士夫)に会いに行く。

出てきた黒木は刑事の羽島に、バーテンの羽島(杉田康)を紹介するが、自分は何らやましい所がないような様子。

念のため、黒木の事件当日のアリバイ調査を続けていた捜査班だったが、黒木のアリバイはしっかりしていた。

そんなある日、皇居脇を歩いていた一人の女性が突然倒れる。

たまたま現場の近くを通りかかった葉山刑事は、何事かと倒れた女性を抱え上げるが、女性は指を上の方に上げたきりで事切れた。

検視の結果、彼女はほとんど即死の状態だったが、白昼の事件だったにもかかわらず、またしても彼女の周囲に人影を見たと言う目撃者はいなかった。

彼女の上司と言う楠木(伊沢一郎)が身元確認に訪れ、彼女は確かに、うちの会社で勤めていた前田則子(松平直子)で、自分に無断で外出していたと証言する。

今回も黒木のアリバイは完全だった。しかも、彼にマッチを使う習慣はなく、いつもタバコを吸う際はライターを使っている事も判明する。

若林と戸田部長刑事(花布辰男)は楠木の会社に出向き、前田則子の机など調べるが、新たな事実は見つからなかった。

楠木に会社の事を聞くと、貿易が本業でビルも自社ビルだが、小さい会社なので、従業員は前田則子一人しかいなかったと言う。

当然ながら、楠木の身元調査も行われるが、紳士的で評判も良く、事件当日のアリバイもはっきりしていた。

その頃、葉山刑事は単独でアジアに向かい、バーテン羽島を、店が終わった後尾行していた。

羽島は、トンネルに入った辺りから、頭の周囲を手で振り払うような格好をしていたが、やがて悲鳴を上げる。

慌てて駆けつけた葉山だったが、そこには背中を刺された羽島が倒れていた。

捜査本部に戻ってきた葉山は、自分がいながら失態を演じた点を若林に謝るが。若林は、今回の羽島と前田則子事件は、状況が似ている事から同一犯の犯行だろうと推理する。

羽島の向かっていた先は、おそらく「ナイトクラブアジア」の踊り子美恵子 (毛利郁子)のアパートに違いないと葉山は報告する。

多田部長刑事は、これまでの被害者たち、渡辺、島根博士、大上代議士の経歴を調べた所、共通点があり、それは彼らが全員、終戦直前、南方の島で一緒だったと言う。

葉山は、もう一つ共通点があると言い出し、羽島と前田則子の事件現場では、蠅の飛ぶような音がしていたと思い出す。

若林は、窓に停まっていた蠅を真剣に見つめるのだった。

その後、美恵子のアパートに出向いた葉山刑事は、羽島との関係を問いただすが、美恵子は言下に否定する。

しかし、玄関から覗いた彼女の寝室ベッドの上に、男のズボンが脱ぎ捨ててあるのを葉山は見逃さなかった。

若林は月岡に電話をし、人間が小さくなって空中に浮かぶと、蠅の羽音のようなものが聞こえないかと質問してみるが、月岡は可能性はあるが…と答えるのみ。

その電話を横で聞いていた杉本は、犯罪捜査に役立つに違いないので、ぜひとも不可視光線の実験を続けてくれと月岡に進言するが、宇宙線の研究の方が本流だと考える月岡は断る。

黒木に再び会いに行った葉山刑事は、美恵子には男がいるでしょう?とかまをかけるが、確証は得られなかった。

ある朝の早川博士の自宅、朝食の席に助手の杉本が姿を現さないのを、同席した月岡や章子は不思議がっていたが、章子がラジオを付けようとすると、スイッチがひとりでに入る。

さらに女中(阿南京子)が持っていたお盆から勝手に食べ物が動き出すのを見て早川博士も驚く。

果物駕篭にあったバナナもひとりでに皮がむかれるが、「やっぱりだめだ!」と杉本の声がするではないか。

長時間陽に当たっている部分は透明にならないので、今、手には手袋、顔にはマスクをかぶっているので、この状態ではバナナが食べられないと言いながら、そのマスクを脱いだ杉本の顔が空中に現れる。

その様子を見ていた早川博士や月岡は、杉本が勝手に透明光線を浴びてしまった事を知る。

早川博士は、今はまだ、元の状態に戻す「還元法」が見つかっていないのに…と、助手の早まった行動を悔やんでみせるが、当の杉本は、月岡さんが見つけてくれるはずと平然としている。

その頃、「ナイトクラブアジア」の黒木は身の危険を感じ、部屋で護衛の手配を電話でしていた。

そこに入ってきた怪しげな男山田(中条静夫)が、突然、黒木をナイフで突き刺す。

その後、何やらアンプルを割り、その中から発生したガスを浴びたその男は、みるみる身体が縮小して行く。

捜査本部では、捜査に出かけたままの葉山刑事が戻らない事を若林は気にしていた。

楠木は会社の部屋の絨毯に水を少したらしていた。

すると、そこに降り立った蠅男が徐々にもとの大きさに戻ってくる。

元の姿に戻った蠅男山田は、楠木から、前田則子殺害といいバーテンの羽島殺害の件といい、よけいな殺人ばかり繰り返していると叱られると、「覚め気味はお前も知っているだろう」と元に戻ったばかりの時の気分の悪さを訴え、また新たなアンプルをねだるのだった。

アンプルはもうほとんど残ってないと言う楠木に対し、まだ一個中隊分ほど残っているはずだと反論した山田は、前田則子は危うく警察にたれ込まれる所だったし、羽島は美恵子に手を出したから殺したのだと弁解する。

楠木は、終戦間際、自分一人をあの島に置き去りにし、しかも日本に帰ってくると、自分だけが戦犯扱いにされ、6年間も重労働させられた恨みを晴らしているのだと言う。

自分を裏切った渡辺や島根たちは、自分たちが島で作っていたこのアンプルで死ぬのだと言いながら、山田にアンプルの追加を渡しアジアに戻れと命じた楠木は、お前はだんだん残忍性が出てきたと心配する。

その店に戻る山田を尾行していた葉山刑事は、またトンネル付近でまかれ、うろたえている中、突然、闇にまぎれていた山田から刺される。

山田はその場でアンプルを割りガスを吸うと、縮小して蠅男に変身すると逃走する。

葉山刑事の殺害は新聞でも大きく取り上げられ、焦った多田部長刑事は、山田を引っ張りましょうと若林に進言するが、若林は、決め手をつかむまで世論にはなびかないつもりだと決意を述べる。

その決め手とは科学だと考えていた若林は、月岡の元を再度訪れる。

犯罪捜査に「不可視光線装置」を手軽な大きさに作れないかと相談した若林に、月岡はポータブルラジオ程度にはできるし、還元光線も作ってみたが…と、説明した後、実験用のウサギに透明光線を当たた後、還元光線も浴びせてみせる。

一旦透明になったウサギは元の姿に戻るが、その2分後に、けいれんを起こし死んでしまう。

月岡博士の説明によると、還元された身体は、全身癌におかされているのだと言う。

つまり、今のままで透明光線を使っても、透明なまま一生を過ごすか、死を覚悟して元の姿に戻るしか方法がないのだと言うのだった。

「ナイトクラブアジア」では、舞台に出た美恵子が、突然倒れて死亡する事件が起こる。

その直前の楽屋で寝そべって歌っていた美恵子の身体に、蠅男山田が這っていた事を誰も知らなかった。

若林は、前田則子や羽島事件の状況から考えて、人間が蠅のように縮小して犯行を犯している可能性がある事を進言するが、聞いた刑事部長は全く信じようとはしないばかりか、若林に休養を勧める。

何とか捜査続行を願い出た若林は、またまた月岡に会いに行くと、捜査に役立てたいので自分に不可視光線を当ててくれと志願するが、還元すると99%死亡するような人体実験をする事は、科学者としての良心が許さないと月岡は拒絶する。

しかしその後、研究所にこもっていた早川博士と杉本助手に月岡と章子が会いに行くと、入り口の開閉スイッチが聞かない事に気づく。

月岡が非常用スイッチを入れて部屋に入ると、そこで殺害されている早川博士と杉本の姿を発見する。

恩師と助手の二人を失った月岡は覚悟を決め、自ら不可視光線を浴びる事にする。

楠木の部屋に戻ってきた山田は、不可視光線装置を奪って来れなかったばかりか、また二人も殺害してきた事を楠木から叱責される。

その時、入り口のドアが開いたので、楠木が廊下を確認するが誰もいない。

楠木は、今夜自分は猟に出かけるが、今度こそ失敗するなと山田に新たな指示をする。

その夜、再び早川邸を訪れた蠅男山田だったが、実験室においてあったビーカーの中の強力な酸に飛び込むと、悲鳴を上げ絶命する。

翌朝、全身火傷で死亡した山田の死体を早川邸に見に行った若林は、また密室だと多田部長刑事にこぼしながらも注意深く部屋を観察し、壁の空気孔の隙間から蠅男が侵入したに違いないと見抜く。

その日、会社に戻ってきた楠木は、部屋に若林と多田が勝手に入って待っていた事を知り不快感を示す。

若林が一連の事件の容疑者として逮捕すると逮捕状を出してみせると、それを即座に破いた楠木は、自分は夕べ奥伊豆にいたとアリバイを証言してみせ、自分を引っ張る証拠を見せろと迫る。

すると、どこからともなく「私は見た!」と言う声がする。

「私が証言する、昨日、何を山田に話したか」と言う声を聞いた楠木は、月岡が透明化していると知り敗北を認めると、着替えさせてくれと言い、隣の部屋に向かう。

多田部長刑事がドアの所で見張っている中、楠木は突然持っていたアンプルを割ってガスを吸うと、刑事たちが見守る中、蠅男に縮小して行く。

換気扇から逃げようとするので、急いでそのスイッチを入れた若林だったが、蠅男は別の空気孔からまんまと逃げ出してしまう。

逃亡した蠅男の話題はマスコミを賑わし、町中には、蠅男に注意を喚起するアナウンスカーが走り回り始める。

都民たちは疑心暗鬼になるが、そうした中、またしても白昼殺人が起き、世間は騒然となる。

そうした中、早川博士の研究室では、娘の章子が一人こっそり不可視光線を浴びていた。

警視庁の若林から呼び出された透明人間月岡は、楠木から連絡があり、君に2時にここの電話をしてくるそうだと言いながら、逆探知の準備もできている事を見せる。

時間通り電話がかかってきて、受話器を受け取った月岡は、透明光線装置を寄越せと言う相手の要求を断る。

すると、今すぐ屋上に上がって、そこから見える国電の様子を見ろと楠木は言う。

3分間しか猶予がないと言うので、慌てた月岡は警視庁の屋上に駆け上がる。

その様子を察知した若林もその後を追う。

彼ら二人が見守る中、ちょうど近くを通りかかった国電の電車が大爆発を起こし。700名もの犠牲者が出る大惨事が起きてしまう。

楠木は、一週間以内に透明光線装置を渡さないと、次の爆破を起こすと予告してくる。

捜査陣の必死の捜査にもかかわらず、予告日まで後三日と迫る。

そんな中、記者クラブから連絡が入り、楠木からマスコミ宛に公開状が送ってきたと連絡が入る。

それを見ると、装置の受け渡し指定場所は丸の内世界ビル屋上、14日の午前0時、若林課長が一人で来いと書かれてあった。

対策本部では、都内戒厳令の検討も進められるが、結局、透明光線装置を明け渡す事に決定する。

指定当日の夜、都内全域は徹底した警戒態勢が取られていた。

もちろん、丸の内周辺も蟻の這い出る隙間もないほど、警官刑事たちが張り込んでいた。

深夜、透明光線装置を持った若林が世界ビルの屋上に到着すると、どこからともなくヘリが近づいてくる。

屋上に降り立ったヘリコプターから降り立った楠木は、周囲に潜んでいる人影に気づき、約束を破ったなと言いながらも、こっちも破った。もう爆弾は仕掛けてあり、爆発までは後8分だと言うではないか。

若林は、後ろを向けと言う楠木の言葉に従うとみせ、装置を取るため近づいてきた楠木に飛びかかるが、後4分しかないぞと楠木はうそぶく。

そこに「待て!」との声が聞こえてくる。

月岡が来た事を知った楠木だったが、爆弾の場所を盾にしている以上、相手が手が出せない事を知っているので、平然と装置を持ってヘリに乗り込むと「爆弾を仕掛けたのはクリスマス島だ」と人を食った言葉を残し飛び立ってしまう。

まんまと楠木にだまされていた事に気づいた若林と月岡だったが、なす術無くヘリを見送るしかなかった。

ところが、一旦飛び立ったヘリが又、元の屋上に降りてきたではないか!

操縦席からは、両手を上げた楠木が降りてきて、その背後に銃が空中に浮いてついてくる。

透明人間になった章子は、いつの間にか、操縦席に忍んでいたのだった。

もはやこれまでかと思われた楠木だったが、最後の抵抗を試み、若林たちから逃げ出そうとする。

若林も、逃走する楠木に向けて発砲するが、楠木は屋上の橋まで来たところで足を踏み外し、地上に墜落死してしまう。

翌日、警視庁の若林の机の前に立っていた月岡は、実はもう、還元光線が完成していたのだと打ち明ける。

そこへ、新聞記者たちがなだれ込んできて、章子はどこかと探す。

若林が、目の前で着替え中だと言うと、いつの間にかすぐ目の前に章子が姿を現す。

驚いた記者たちが、章子を写真撮影している間に、こっそり若林に耳打ちした月岡は、話があると記者たちに切り出し、透明装置は公共機関に寄贈したいと発表するが、その直後、月岡と章子の姿は消えてしまう。

記者たちは、慌てて、消えた二人を追って部屋の外に飛び出してしまう。

皇居側の道に、並んで姿を現した月岡と章子は、楽しそうに帰るのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

透明人間と蠅男が対決する怪奇犯罪サスペンス。

一言で言うならば、往年の特撮番組「怪奇大作戦」に近いイメージの作品である。

ここに登場する「蠅男」と言うのは、後に「THE FLY」でリメイクされる「蠅男の恐怖」(1958)に登場する蠅男ではない。

むしろ、「縮むゆく人間」(1957)に登場する縮小人間のイメージに近い。

1957年8月25日に封切られた本作が、同年公開の「縮みゆく男」をヒントにしたとすると、あっと言う間に即席で作った事になるし、翌年の「蠅男の恐怖」との相似とも考え合わせると、偶然にこの時期、同じような発想があちこちで考えられていたと言う事になる。

最初に蠅男として登場する、どこか異常性を持った山田を演じているのは中条静夫、それと対決する科学者月岡を演じているのは、「素浪人月影兵庫」や「花山大吉」で焼津の半次をユームラスに演じていた品川隆二であるのも見物である。

品川隆二はテレビ版「忍びの者」などでシリアスな二枚目役もこなしていた人なので、この作品でも二枚目役として演じている。

この作品、今の感覚で観ると、SFとしてもミステリとしてもテンポが悪く、決して成功しているとは言いがたい出来だが、当時としてはあれこれアイデアを盛り込んでいるので、マニア的な視点で見ると、それなりに楽しめなくもない出来ではないかと思える。