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ビルマの竪琴('85)

1985年、フジテレビ+博報堂+キネマ東京、竹山道雄原作、和田夏十脚本、市川崑監督作品。

1956年の名作「ビルマの竪琴」と同じ、脚本、和田夏十、監督、市川崑コンビでの再映画化作品。

冒頭、井上部隊が荷車二台で運んでいた火薬の一方を谷底に落として爆発させてしまう点。

大阪弁を話すビルマの老婆に、夫(常田富士男)と言葉が不自由な親戚の女の子コマチが登場する点。

三角山で行方不明になった水島上等兵が、捕虜収容所にいる井上部隊の面々と再会するまでの時間経過の構成…など、若干の相違点はあるものの、ほぼ、オリジナル版と同じ印象の作品になっている。

この作品だけ観れば、これはこれで感動できると思う。

ただ、厳しい条件下で作られた白黒版のオリジナル作品ほどの感動があるかといえば、首を傾げざるを得ない。

どこがどう悪いとは指摘しにくい。

本作を先に観て、オリジナル版を後から観れば、また受ける印象は違うかも知れない。

あえて、オリジナル版との違和感をいえば、役者個々の魅力の違い…というくらいか。

本作で水島上等兵を演じた中井貴一も生真面目そうで悪くはない。

しかし、オリジナル版で水島を演じた安井昌二が、冒頭見せる基本的な性格の明るさ、屈託のなさの人物描写が本作では薄まっている。
それは、中井貴一のキャラクターに合わせたためかも知れないが、その当初の明るさの表現が薄まった分、三角山での事件以降に水島が抱く悲愴感、絶望感とのギャップが、やや弱くなったように感じる。

井上隊長にしても、本作で演じた石坂浩二の方が、音楽学校出身…という設定により近いとも思えるが、演じている当時の石坂本人の年令のせいか、キラキラ輝くように若々しかったオリジナル版の三國連太郎より、何となく生気に乏しく、印象に残りにくいキャラクターになっているのが気にならないでもない。

それは、オリジナル版と同じ役で登場する大阪弁のビルマの老女、北林谷栄にしても同じ。
本作の方が、演じている老婆の実年齢に近づいてはいるものの、ややパワーが衰えて見え、それが、そのまま、この老婆の印象に重なってしまっている。
オリジナル版ほどの強烈さが失われているのだ。

だが、全てが弱くなったと言う事もなく、三角山の隊長役で登場する菅原文太や、音痴の軍曹役を演じる川谷拓三などは、オリジナル版の三橋達也、浜村純(本作では、ビルマ人の村長として登場)とは、また違った存在感を見せてくれる。

とはいっても、カラーになり、オリジナル版よりははるかに予算を費やして作られたと思われる本作でのビルマの風景、その荒涼さが表現できていないのはどうしてだろう。
水島と井上部隊の面々が接近遭遇する釈迦の涅槃像などにしても、オリジナルを撮った時との時間の経過のせいか、本作のほうが薄汚れて見えるのが残念。

特に、日本兵の遺体が累々と連なる川岸当たりの悲惨さは、オリジナル版の方がはるかに強烈である。

全体としては、まずまずのリメイク版というべきだろうが、出来うれば、オリジナル版の方を観る事をお薦めしたい。本作とは、決定的に何かが違う…というしかないのだが…。