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幻の湖

1982年、橋本プロ、橋本忍原作+脚本+監督作品。

脚本家、橋本忍氏の「私は貝になりたい」(1959)に次ぐ監督2作目。

「昭和57年芸術祭参加作品」「東宝50周年記念作品」という肩書きが付いているが、どう考えてもこの作品、外部の橋本プロの持ち込み企画以外の何ものでもなく(東宝はこの当時、すでに製作からはほとんど手を引いていた)、配給を担当した東宝の記念作品などという意味合いは全くといって良いほどないものと思われる。

ゴジラ映画などでお馴染みだった中野昭慶氏が特撮を担当している事も、誤解を与える要因になっているようだが、中野氏が東宝砧撮影所特殊技術課に在籍されていたのは1981年まで。
つまり、翌年のこの作品にはフリーの立場で参加されたものと推測される。

さらに、この作品を特長付けているのは「スター不在の映画」である事。
大作と謳われていながら、実際の所、スター級の俳優など一人も出演しておらず、むしろインディーズ映画に近い配役になっている。

内容も、映画というよりは、締まりのないテレビの2時間サスペンスを観ているような印象に近い。

つまり、この作品は実際の所、橋本忍氏の極めて個人的な企画であったものが、何故か、とんでもない肩書きを付けられた「超大作」として公開された為に、多くの誤解を招き、今や一部で「トンデモ映画」として祭り上げられるまでになってしまった悲劇の作品とも感じる。

基本的には、ありふれた展開を意図的に排した、一種の「実験映画」のようなものだと思われる。

通常、普通の作品は、30分も観ていれば、それがどういう性格の映画なのか観客は推測できる。
ミステリーなのか、ホームドラマなのか、喜劇なのか…といった程度の「大枠」は理解できるものである。
それがあるからこそ、観客は安心して物語世界に没頭できるのだが、この作品はそういう「大枠」というか「ジャンル」のようなものが何時までたっても見えてこない。

主役がマラソンに日々励んでいるので、「スポーツもの」かと思えば、そうでもなく。
シロという野良犬と主人公の心の触れ合いを描いた「動物もの」なのか?…と思えば、そうでもなく。
風俗で働いている主人公の青春物語みたいなものなのかと思えばそうでもなく。
アメリカの情報員が登場する陰謀劇なのかと思えば、そうでもなく。
愛犬を殺された主人公の復讐劇なのかと観ていれば、必ずしもそうともいえず。
壮大な歴史因縁物語なのかといえば、そうでもなく…。

しかし、その全てが盛り込まれている…、そういう内容なのである。

一般的に素人が監督すると、内容に対する思い込みが強すぎて、客観的にそれを思いきり良く編集する事ができないので、詰め込み過ぎで冗漫になりやすい…という傾向があるが、本作もその典型のような結果に終わっている。

最初から、素人監督が作った壮大な実験作と割り切って観る事をお薦めしたい。

ピントの定まらない前半部分を我慢して観ている内に、観客も又、後半になるにつれ、ランナーズハイのような状況に陥り、何やらヘラヘラと楽しい気分になってくるから不思議である。

それが、作者の意図した演出であったとすると、本作は侮れない作品というべきかも知れないのだが…。