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ラッキーさん

1952年、東宝、源氏鶏太「ホープさん」「三等重役」原作、猪俣勝人脚本、市川崑監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

「若原徳平(小林桂樹)社長秘書に命ず」という辞令の大写しから作品は始まる。

飲み屋で野口(堺左千夫)ら南海工業の社員たちが、同僚、若原の出世を祝福しながら、彼の事を「ラッキーさん」と命名する。
当の若原は気分が良くなり、給料の前借りをして同僚たちに酒をふるまうのだった。

酔った若原の後輩、近藤(小泉博)は、道で売り付けられた花束を、たまたま近くにいた見知らぬ女性に渡すのだが、彼女のあまりの美貌に見とれてしまう。
彼女こそ、南海工業の前の社長で、現在公職追放中の奈良(小川虎之助)の令嬢、由起子(杉葉子)だったのだが、その時点で近藤が知るはずもなかった。

由起子は、現在、美容院「マグノリア」を自分で開店させた所であった。

同じ秘書仲間の町田素子(島崎雪子)の父親で、来年定年を迎える万年平社員の町田(斉藤達雄)は、その風貌を見込まれて、時々、社長代理の役を仰せつかっていた。

その日も、「マグノリア」開店祝いの薬玉を届けるよう、秋庭社長(河村黎吉)から若原経由で依頼されるが、別の告別式に出席した帰りに寄った事を、正直に由起子に打ち明けてしまった為、彼女の機嫌が悪くなり、その場にいた社長婦人(沢村貞子)も彼を叱責する始末となる。

ある日、社長から、由起子の適当な結婚相手はいないかと相談された若原、お世辞も含め、秋葉の息子で東洋医科大で教鞭を取っている恭太郎(伊藤雄之助)の名前をあげると、社長もすっかりその気になり、自宅へ電話をかけ、恭太郎にマグノリアへパーマをかけさせに行く。

しかし、由起子の気を引く事などできず、パーマにかこつけたお見合い計画は完全な失敗。
恭太郎のとんでもない髪型が残っただけであった。

どうして、秋庭社長がそこまで、由起子の面倒を見たがるのかといえば、奈良が間もなく公職追放を解かれ、社長に復帰する予感があったからである。
奈良前社長が復帰すれば、留守番社長でしかない秋葉の身の上がどうなるか補償の限りではない。
それで、今の内に、あれこれゴマすりをしておこう…という算段なのである。

若原も、何とか由起子の良い結婚相手を見つけようと、時期外れの社内運動会を立案実行する。

由起子に見そめられるチャンスとばかり、独身男性社員たちは大はりきり。

しかし、運動会で由起子が気に入ったのは、どうやら、若原本人だったらしい。

かねてから若原に思いを寄せていた素子と、その場で由起子の素性を知ってしまった近藤は共に気落ちしてしまう…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「社長シリーズ」の原点ともいうべき作品で、基本的要素は大体揃っている。

女房がありながら、バーのマダム(千石規子)と浮気旅行をしようとする素頓狂な(高音で、時々オカマ口調)秋庭社長は、正に森繁の前身。
社長室には、先代からの社長の写真が何枚も麗々しく飾られている所も同じ。

社長の公私に渡る無理難題を何とか処理しようと頑張る秘書、小林桂樹はそのまんま。
アパート住まいの独身ながら、その誠実さとバイタリティに、素子や由美子からモテモテという役所である。

社長シリーズだけ観ていると、何故、時々、小林桂樹が社長に対して大きな態度を取ったり、あの風貌で(失礼!)女性にモテるのか分からなかったが、この作品を観て疑問が氷解した。
この一連のサラリーマンシリーズ、基本的には、秘かな野心を持つ秘書の方が主役なのである。

本作も社長シリーズほどではないにせよ、ユーモア表現も随所に見られ、軽いタッチのサラリーマンコメディになっている。

由起子と若原が霧に埋もれた墓地でデートするシーンなどは、古典洋画を観ているように幻想的で、市川崑監督独特の美意識が味わえる。