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黒部の太陽(短縮版)

1968年、三船プロダクション+石原プロモーション、井手雅人+熊井啓脚本、熊井啓監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

闇の中、彼方に昇りかける太陽のオレンジ色の光芒の画像からこの映画は始まる。

三船、裕次郎を筆頭に主要キャストが簡素に、そしてスタッフに続きタイトル。

昭和31年、雪積もる険しい日本アルプスに調査に訪れた、関電黒四建設事務所の次長、北川(三船敏郎)と、トンネル設計者吉野(岡田英二)らは、見聞のため先行して登っていた森山班のメンバーの一人が足を滑らせ、崖下に落下していく様を目撃する。

丸山ダムの建設に功績のあった北川は、所長の平田(佐野周二)から、黒四ダム建設の責任者に任命される。

一旦は固辞した北川だったが、太田垣社長(滝沢修)からの強い要請もあり、結局受ける事になる。

一方、工事の下請けを引き受ける事になる間組の国木田(加藤武)から「親父さんが危篤だ」との冗談めいた電話で呼出された設計士の岩岡剛(石原裕次郎)は、北川の家で、北川とその家族(妻、加代-高峰三枝子、長女、由紀-樫山文枝、次女、牧子-日色ともえ、三女、君子-川口晶)、さらに、強引頑固な性格ゆえに、兄を工事現場で死なせてしまった事がきっかけとなり、長らく不仲な状態であった父、源三(辰巳柳太郎)とも会う事になる。

岩岡は、フォッサ・マグナ(破砕帯)を貫通する事はできないと、この計画の無謀性を指摘するが、それを聞いた源三は他人宅である事も忘れて激昂するのだった。

昭和31年8月1日、いよいよ工事が始まる。

第一工区を担当する間組は、山の対面側から迎え堀りを開始する。

北川は、昔を知る森(宇野重吉)から、戦時中、軍部の命令によって、300人もの抗夫が犠牲になった黒三ダムの話を聞かされ、今回の工事では、何としても一人の犠牲者も出すまいと決意していた。

第四工区を担当する佐藤工業は、さらに奥地の作廊に基地を作らざるを得なかった。

その頃、京都では、北川宅で出会った時から、互いに好意を抱きあった剛と由紀が、つかの間の逢瀬を楽しんでいた。

右足を悪くしていた源三は、医者から仕事を休むように忠告されるが、頑としていう事を聞かない。
そんな源三を見舞いにと、北川は剛と連れて現場にやってくるのだが、剛は、昔、現場で強引に爆破を兄に頼み、爆死させてしまった父、源三の強欲さを指摘し、又しても、大げんかが始まるのだった。

翌昭和32年4月下旬、工事は難航を極めていた。
5月1日、大規模な出水。
2日、悪性ガス発生。

主抗は、破砕帯にぶつかり、全く掘り進めなくなる。
その周辺に掘ったいくつも副抗も行き詰まっていた。

そうした中、現場にいた源三は足が悪いばかりに、トロッコに引っ掛けられ怪我を負い、現場から後退させられる事を余儀なくされる。

その父親の姿を見て、今まで、あれほど、この工事に反対して来た剛は、自分が先頭に立って工事を進める決意をするのだった。

ある日、由紀は剛を呼出し、入院した妹の病状が思わしくない事を打ち明けていた。

そうした中、久々に実家に帰った北川は、かねてより連絡をもらっていた次女牧子を見舞うのだが、彼は、彼女の病気を軽いものだと思い込んでいた。

しかし、実は牧子は白血病に犯されていたのだった。

急いで現場に帰ろうとする北川は、一晩だけでも泊まって、明日又、牧子を見舞って欲しいと必死に懇願する由紀の態度からただならぬ気配を感じ、妻から、牧子の本当の病名と、余命1年しかない事を聞かされ、ただ呆然と立ち尽くすのだった。

北川は、工事が遅れているのは、さらなる金をせびるための工事会社の駆け引きだと考え、藤村(柳永二郎)とサウナの中で直談判するが、長年の経験を持つ藤村は、どうしてもこのトンネルは無理なのだと言い切る。

それに対し、北川は、人間には金と時間と知恵を出せば、出来ないものはないはずだというが、藤村は、「いくら金を積んでも、ガンなども直せないではないか」と言い返す。

しかし、娘の事が頭にある北川は、それでも、やがてはできると言い切るのだった。

とうとう、太田垣社長自らが、手を付いて工事の遅れを取り戻すために、冬場からの進行を願い出るに及び、藤村も腹を括る。

昭和32年12月2日、とうとう破砕帯を突破。

その後、剛は、由紀と結婚式を上げていた。

その姿を見届け、喜んだ牧子だったが、その後、病状はさらに悪化、ベッドから起きあがれない状況になる。

翌、昭和33年2月23日、とうとう剛は、一人でドリルを回し、トンネルを貫通させるのだった。

トンネル双方のメンバーが全員集結し、貫通祝いの直中、北川は剛から電報を渡される。

トンネル貫通を願ったまま、息を引取った牧子の知らせであった。

その哀しみを胸に、北川は坑夫たちに、長年の苦労に対し感謝の気持ちを述べるのだった。

剛たちは、トンネルの上に掲げられた安全マークの入った旗が、風にそよいでいるのに気づく。

黒部の風であった。

その後、無事完成したダムに佇む男が一人、北川だった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼


巨大な坑内の実物大セットがいくつも組まれ、翌昭和32年5月1日に起きた大出水以降、絶えず、雨が振るように天井から漏れてくる水しぶきの中で懸命に働く、多くの労働者の姿がリアルに描かれて行く。

ミニチュア特撮や合成処理などは一切なく、登場する大型トラック群やヘリ、掘削機などは全て本物。

やはり見ごたえはある。

この作品を観てみると、この後、70年代から80年代に渡り、日本映画で作られて行く事になる大作の数々は、多かれ少なかれ、この作品から何らかしらの影響を受けている事が分かる。

困難に立ち向かう男たちの生真面目なドラマ、同時進行的に挿入される愛情表現と悲劇要素…日本におけるある種の基本的な大作パターンがこの作品から始まったのだと実感させられる。

本作では、どちらかというと、裕次郎が三船を立てているような雰囲気が伝わって来る。
私情に流されず、無口で仕事一筋の主人公、三船のキャラクターは、この後、高倉健が演じて行く事になる主人公のキャラクターにダブる。

つまり、70〜80年代大作群を好きな人にとっては、この作品にも感動するだろうし、逆に、そうした大作群に今一つ乗れないタイプの人には、本作もやや大味に感じるのではないか。

自然描写などは素晴らしく、大作としての風格はあるが、基本的にドキュメンタリーのような話であり、ドラマ的にはやや単調かも知れない。
裕次郎演ずる岩岡と父、源三の確執。

岩岡と北川の長女由紀との付き合いから結婚に至る過程。

北川の次女、牧子が突如不治の病に犯され…というパターンは、何か実話を元にしているのかどうかは定かではないが、今観ると、ちょっと、わざとらしさを感じないでもない。

しかし、人間に、金と時間と知恵を与えれば不可能なものはなく、やがては、難病といわれるガンをも克服できるはずだという三船のセリフは重い。

亡くなった次女は、「さらなる、人類が挑戦しなければならない課題」の象徴なのかも知れない。

一見、電力会社や工事会社のPR映画のようにも見えるが、こうした暗喩も見逃してはいけないだろう。

まさしく、高度成長期特有のパワフルさを象徴する作品とも思える。

最近の映画と違い、当時の映画は長々としたスタッフ紹介などが付いていないため(編集の関係で切られたのかも知れないが)、泥まみれの大勢の労働者たちの中に誰がいるのか、よほど注意してみていないと分からないのだが、確認できた範囲では…。

若き日の下川辰平、大滝秀治、下条正巳、佐野浅夫らの姿を発見する事ができた。

ハッパ係の佐野(水戸黄門)浅夫は作業現場で爆死。
下条(寅さんのおいちゃん)正巳は、岩岡親子とぶつかり、途中でケツを割る。(顔はきちんと映らない。親子を罵る声とキャメラ前を通り過ぎるピンぼけ映像だけ)
大滝秀治は結構いい役である。トンネルが貫通する時点まで最前線の現場に参加しており、貫通の祝いの儀式ではその中心的人物で、裕次郎とがっちり拍手する。

他にも、志村喬(関西電力の重役)、宇野重吉(戦時中の黒三ダム建設に参加した経験を持つ男)ら重鎮も登場。(芦田伸介、二谷英明、寺尾聡、北林谷栄らも出演しているらしいのだが、今回の編集版では確認できなかった)

戦時中、戦争に勝つ為にと駆り出され、結果的に300人もの犠牲者を出した黒三ダム建設で、青竹片手に労働者をしばきまくってこき使っていた、古いタイプの親方を演じる辰巳柳太郎の頑固一徹なキャラクターが特に印象に残った。 (辰巳がかつて演じた「どぶろくの辰」での辰のイメージから、この役にキャスティングされたのでは?…と思ったりもする)


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