1958年、東宝作品。
言わずと知れた黒澤時代劇の秀作である。
「スター・ウォーズ」のC-3POとR2-D2のロボットコンビに影響を与えた…とルーカス自ら認めた作品だが、男勝りの姫君を連れて、敵地をかいくぐるストーリーそのものもそっくりで、原点といっても差し支えないのではないだろうか？
冒頭、千秋実と藤原鎌足扮する農民コンビが、戦で荒れ果てた荒野をふらふらと歩いている。
やがて、彼らは、男の扮装に身をやつした美女と、侍崩れのような男に出会う…。
実は、この二人こそ、戦いに敗れた元姫君と、その家臣の変わり果てた姿だったのだ。
彼らは、偶然であった二人の農民に軍資金を隠した薪を背負わせ、敵地からの脱出を計る。
4人の脚本家（黒澤明、菊島隆三、小国英雄、橋本忍）が、各々敵味方に別れ、難関とその脱出法のアイデアを互いに出し合った…と噂されているほどの脚本は、見事と言うしかなく、さほど予算をかけた大作ではないながら、見所の多い娯楽作になっている。
本作だけの出演だったと言われる、姫君演ずる上原美佐が初登場するシーン、崖の上にすっくと立つ凛々しい姿を、下から見上げた撮り方など、従来の時代劇の常識では考えられない斬新な演出といえよう。
それは、同時に新しい時代の女性像を重ね合わせているようで、当時の黒澤の先進的な考え方を知る手がかりともなるのではないか。
また、彼らと敵対する相手側の武士像も、単なる悪役とはせず、きちんと武士道に乗っ取った優れた人物として造形されているため、観ていて「爽やかさ」さえ感じさせる。
また、技術的も、森の中を走る馬上の武士を、キャメラが延々と追い続けるシーンなど、海外の演出家でさえ、首を傾げたような、独自な工夫も凝らされているらしい。
全体的には、限定した人物中心のドラマ作りになっているが、ワンシーン、驚愕すべきモブシーンがさりげなく挿入されたりしており、観ていて注目すべきシーンは多い。
若き時代の黒澤組のレベルの高さを実感出来る、貴重な作品だと思う。
