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生きる

1952年、橋本忍+小国英雄脚本、黒澤明脚本+監督作品。

やはり、この作品に真に突き動かされた…という人は、作品が発表された当時、つまり、戦後まだ間もなく、生きる方向性を誰もが見失っていた時代に、この作品と出会った…という世代の方が、圧倒的に多かったのではないだろうか。
それは、今、多くの人が「生きる充実感」や「生きる方向性」をきちんと持ち得ている…というより、めまぐるしく移り変わる社会にただ押し流されているだけで、「生きる」とは何ぞや?…、「自分の存在とは何ぞや?」…といったような、哲学的な命題をじっくり考える、時間や姿勢そのものが失われつつあるからではないか…とも思える。
正直にいえば、私もこの作品のテーマそのものに、心から感動した…とはいえなかった。
それでも、この作品には、当時の時代背景や人間像が豊かに描かれている事もあってか、最後の最後まで引き付けられてしまった事も確かである。
特に個性的な脇役陣の存在感には、初期黒澤らしさを感じ、堪能させられた。
テレビ初期の名作「チャコちゃん」シリーズのチャコちゃん事、四方晴美の実母、小田切みきや、特異な風貌の伊藤雄之助、髪の毛がフサフサ時代の若き金子信雄や浦部粂子など珍しい配役もあれば、志村喬以下、千秋実、左卜全、藤原鎌足、渡辺篤…といった常連組の存在感も充実しており、一見地味なドラマをしっかり支え切っている。
哲学的なテーマそのものに対する受け止め方はともかく、これらの脇役陣の充実した芝居を見るだけでも、名作の名に恥じない傑出した内容だと思う。
やはり、一度はじっくり対峙してみる価値はある作品であろう。