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山のかなたに

1950年、新東宝、石坂洋次郎原作、千葉泰樹監督作品。

第一部「林檎の頬」、第二部「魚の涙」の二編からなる。
助監督は井上梅次。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

終戦2年目の夏、山に囲まれたとある町が舞台。(ロケ地は三島らしい)

不必要になった物品を展示して、それを欲しい人間が購入する「交換会会場」となっていた、ある学校の体育館に、一人の女性が訪ねてくる。

頭にはターバン、パンタロン姿のモダンガール風のその小粋な女性、井上美佐子(角梨枝子)は、学生風の男に家族が住む家を探していると言い出す。何でも、今借りている借家を追い出されそうになっているというのであった。

しかし、その学生風の青年は「フナ」というあだ名を持つ物理教師、上島健太郎(池部良)であった。

東大出の彼はいつもボーッとしていたが、その時も、窓から外の様子を見始める。

外では、予科練帰りの5年生が2人、下級生たちを並ばせて、「根性を入れてやる」と称して殴りつけていた。上島は、その様子を窓から唯眺めているだけ。

殴られた下級生たちは、「先生なんか案山子と同じ」と言い捨てて、その場を去る。
その一部始終を見ていた美佐子は、だらしない上島をなじって帰る。

帰宅した美佐子の家に、一人の青年が訪ねてくる。
彼女の父親である井上源一の軍隊時代の部下であった志村浩一(掘雄二)であった。

彼は、井上隊長から、娘を嫁にもらってくれといわれたのでやってきたと言い出すが、美佐子はあきれて跳ね返す。彼女は今、洋裁の先生として立派に独立していたからである。
ちょうど、その時、美佐子の家に習いに来ていた彼女の生徒、たけ子(若山セツ子)は、帰り道、かき氷を食べながら、美佐子の弟から慰められていた志村と再会する。

志村はその足で、今度は学校の先輩であった上島の下宿先を訪ねる。

そうした中、上島の同僚、山崎先生(田中春男)は、交換会で出会った美佐子を一目で好きになり、生徒である大助に彼女へのラブレターを託すのだが、間が悪い事に、そのラブレターは、予科練帰りの不良グループに奪われてしまう…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

石坂洋次郎ものらしい、戦後の理想主義に溢れた好編である。

予科練帰りですっかり荒んでしまった一部学生たちの暴力主義に、何とか有効な解決策はないかと悩む上島。
当時の学校は、小中合同であったのか、5年生というのは随分大人びて(17、8くらいに)見える。

そのシリアスなテーマを、勝ち気な戦後女性の象徴のような美佐子や、おっとり青年の志村、愛らしい女の子たけ子などの楽しいキャラクターらによる愉快なエピソードが膨らませている。

特に、女性のくせにタバコを吸うような人間は嫌いだと、美佐子一家を貸家から追い出そうとしていた靴屋の頑固オヤジに詰め寄る、たけ子たち洋裁生徒たちの騒動に無理矢理同行させられたり、そんなたけ子にプロポーズしたいのだが勇気が出ず、結局、小学生の大助に手伝ってもらう志村の情けない姿がおかしい。

女心は良く分かるとばかり、赤白の手旗信号を使い、山でデート中の志村にアドバイスを与える大助のシーンが絶妙。

志村のプロポーズに戸惑いながら、自分なんかちっとも美人じゃありません…と拗ねてみせるたけ子の様子に、手旗信号にかぶされた解説文字では「彼女は嘘をいっている。日本中で、自分は原節子の次に美人だと思っている」…には大爆笑。

さらに、河原での、不良5年生と大勢の2年生による大乱闘のシーンは圧巻である。

この時の上島先生の行動が、今でも有効であるかどうかは疑問だが、戦争を経験した直後の日本人には、一つの理想の姿として、心に焼き付いた事は確かだろう。