TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

私の鶯

1938年、満州映画+東宝、大仏次郎原作、島津保次郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

1917年、ロシアでは皇帝が倒された後も、白系ロシア人と赤系ロシア人の内紛が続いていた。

松花江(スンガリー)を渡る一隻の蒸気船。
その中では、身体の弱った日本人隅田清と、彼をいたわるロシア人ラズモフスキー伯爵が互いの過去の出合いを回顧していた。

ロシアの松丘洋行出張所代表として、それなりに裕福な生活を送っていた隅田は、その昔、雪道で難儀していたロシア人グループを橇で自らの家に連れて来たのだった。
ロシア人一行は、帝室劇場付音楽団のデミトリ・イワノビッチたちとラズモフスキーであった。
全員での楽し気な晩さんを終えた頃、外では軍閥同士の銃撃戦が始まる。

取るものも取りあえず、全員でその家を逃げ出した一行だったが、途中、後ろの方を走っていた隅田は流れ弾に足をいぬかれて落馬してしまう。
彼を助け起こしたのは、その後ろを走っていたラズモフスキーだったが、先を走っていたデミトリ一行と隅田の愛妻と赤ん坊を乗せた馬車は後方の異変に気付かず、そのまま遠く走り去ってしまう。

それから何年かが過ぎ、足の手術を受けた隅田は、別れ別れになった妻と子の消息を得ようと必死になっていたが、手がかりを得る事もできず、事情を知ると思われるデミトリ探索を友人の巽(新藤英太郎)とラズモフスキーに託し、自分は所用のため、日本から南方へと旅立ってしまう。

さらに時が経ち、当のデミトリはあちこちの都市でオペラを公演していた。
彼が連れ歩いていた美しい娘こそ、隅田の一人娘、マリ子(李香蘭)の成長した姿であった。
彼女は、父の教育の元、素晴らしい歌い手の卵にもなっていたのだった。
そんなマリ子を、今や本当の娘同様に溺愛していたデミトリは、新聞で彼の公演を知り、楽屋へ訪ねて来たラズモフスキーと巽に困惑する。もはや、マリ子を隅田に返す事に耐えられなくなっていたのだった。

その後も、マリ子にはまだ事実を話さないまま、デミトリの公演は続けられて行ったが、ある劇場でボルシェビキらの妨害にあい、劇は大混乱。
その事があってから、デミトリは自分の芸術の時代は終わったと、失意のまま、公の場から姿を消してしまう。

そうした中、満州事変が起こる。

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

まさに波乱万丈の大ロマンである。

物語後半は、すっかり落ちぶれたデミトリとマリ子が、日本軍の満州建国に巻き込まれていく様が描かれている。

注意しなければいけないのは、この映画は、戦前の満州映画で作られたものであり、当然、その内容も満州建国を美化した形で描いている点である。
今観ると、違和感を感じるのはその部分だけであろう。

後は、素晴らしいロシアの歌劇が続々と登場する音楽映画になっているので、十分に楽しむ事ができる。
ロケ先と登場人物の大半が中国やロシア人である事もあってか、画面上はまったく日本映画らしくなく、古き外国の名画を観ているような感じさえする。

劇中で、ロシア語を流暢に話す新藤英太郎や李香蘭(現-山口淑子)の姿に驚かされる事請け合い。
おそらく本物のロシア人芸術家たちに混じって、大劇場で堂々たる歌声を披露する若き李香蘭の存在感も見のがせない。

スケール感溢れる、日本映画らしからぬ隠れた名作であろう。