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1941年、東宝+映画科学研究所、山本嘉次郎監督作品。

製作主任は黒澤明である。

美しく牧歌的な東北の農村を舞台に、貧しい農家の少女と馬の心の触れ合いを描く動物ものの名作。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

馬の競り市で、善蔵(小杉義男)の馬が、軍馬として高い値段で売れた所から物語は始まる。

その市の様子を観ていた馬好きな少女いね(高峰秀子)は、家に帰って来るなり馬が買いたいといいいだすが、貧しい暮らしをしている両親は承知しない。
しかし、家を訪れて来た善蔵の嬉しそうな姿を見て、両親の気持ちに変化が起きる。

やがて春になり、いねは、生まれてくる子馬を譲り受ける事を前提に、妊娠をした母馬を一頭借り受け、世話をする事になる。

ところが、いねの父親(藤原鶏太=鎌足)が、連れていたその馬のふとした動きに巻き込まれ大怪我をしてしまう。

寝込んで働けなくなってしまった父親、その腹いせを馬にぶつける母親、そうした中、一人かたくなに馬の世話をするいね。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

いねの弟妹らを中心に、当時の東北の子供達の素朴な遊びや伝統行事の様子が描かれていたり、紡績工場に集団就職している若い娘たちが盆に帰省してくる様が描かれており、戦前の東北農村部の生活が垣間見える面白さもある。
画面に登場する独特の言葉遣いも素朴で微笑ましい。

中学を卒業した上の弟が、就職のためか、列車で村を旅立つ日、駅への見送りに参加せず、一人、放牧中の馬の様子を見に来ていたいねが、突然裸馬にまたがり、列車を追い掛けるシーンは感動的である。
列車の窓から、その姿を発見した弟が叫ぶ!「ね〜ちゃ〜ん!!」…。

実際に馬に乗っている人間はスタントか?と疑ったが、どうやら、高峰秀子本人がチャレンジしたらしい。

遠くに美しい山並を配し、抜けるような青空の下、広大な草原をひた走る馬に乗った少女の姿。

今の日本では、おそらく、こうしたシーンはアニメでしか再現できないのではないか?
戦前は、こんな素晴らしい映像が『実写』で撮影できていたのである。

少女と動物の情愛物語…と聞くと、何だか押し付けがましい、臭い展開を連想しがちだが、この作品に関する限り、そうしたわざとらしさは一切ない。

一年間の時間の経過をじっくり撮り上げている事もあって、いねを始め、家族たちの心の変化に素直に感情移入できていくからだ。

当初は、馬を怖がっていたという高峰秀子は、良く、馬好きの少女を演じ切っている。
役者も見事なら、演出者も見事という事だろう。

地味なタイトルに惑わされず、大人から子供まで、幅広い層にお薦めしたい日本映画の一本である。