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雨情

1957年、東京映画、時雨音羽原作、八木隆一郎+高岩肇脚本、久松征静児監督作品。

野口雨情の放浪時代を完全なフィクションの形で描いた作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

長い旅から故郷の茨城県磯原へ帰ってきた雨情(森繁久彌)が、地元の知人兄妹(千秋実+扇千景)らに出会い、旅立つ前の事を回想する形で物語は始まる。

裕福な家に育った雨情は、両親に先立たれた後、売れもしない詩などを書くだけで何の生活力もなかったため、周りが身を固めさす事にしたが、婚礼の晩、嫁しづ(小暮実千代)が到着する寸前に姿をくらませてしまったので親戚一同は大騒ぎ。
実はその頃、雨情は、愛人の芸者加代(草笛光子)と密会していたのである。

加代は雨情の将来を思い、自ら身を引く事を告げるが、雨情の方は未練がましい。
そんな所に、加代の情夫気取りの留(小杉義男)が乱入してきて、雨情に殴り掛かるが、親戚一同が駆け付けてきて、その場は何とか事なきを得る。

しかし、しづと結婚後、子供まで生まれた所で、雨情は、加代がいると噂で聞いた北海道を目指し、ふらりと旅に出てしまう。
その北海道では、宿の臨時番頭として働き始めた雨情、偶然、新聞記者として訪れてきた旧知の石川啄木(原保美)に出会い、その勧めもあって、地元の新聞社に身を置く事になる。

記者としての取材相手として、雨情は有名な浪曲師、桃中軒雲右衛門(月形龍之介)に出会ったりする。(この役は、月形自身が戦前「桃中軒雲右衛門」という作品で演じたものの再現になっている)

しかし、肝心の加代本人には会えないまま、雨情は帰郷してきたのであった。

そんな雨情が実家の近所で出会ったのは、見知らぬ一人の子供。
その子供こそ、雨情の成長した息子であった。

戻ってみた実家は、雨情が旅立つ前とは、すっかり様変わりしていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

妻子がありながら家庭の事を一切顧みず、夢のような詩の内容や愛人の事ばかりに没頭し、現実逃避的な生き方しかできない天才肌の詩人の生きざまを、森繁が巧みに演じ上げている。

また、その無軌道な夫に、必死に付いて行こうと耐えに耐える、しづを演ずる小暮実千代も素晴らしい。

中山晋平役で山形勲も登場。

劇中、有名な唱歌の数々が登場する所が、物悲しくも心にしみる。
「青い眼の人形」「十五夜お月」「七つの子」「証城寺の狸ばやし」…。

家が貧しいために好きな船頭(久保明)との結婚もままならない若い娘船頭の姿にヒントを得、森繁自らが歌う「船頭小唄」は絶品!

映画としては、どちらかといえば、地味で凡庸な出来ではないかと思われるが、破滅型というか、ダメな生き方しかできない主人公森繁の、情けないうらぶれた姿は心に残る。