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妻の心

1956年、東宝、成瀬巳喜男監督作品。

とある地方都市、「富田栄龍堂薬鋪」という老舗の薬屋の奥さん喜代子(高峰秀子)を主人公としたホームドラマ的作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

喜代子は亭主の信二(小林桂樹)とその母親(三好栄子)と妹、澄子(根岸明美)と暮している。
年頃だった澄子はじきに嫁ぐ事に。
信二は、薬屋の将来に不安を抱いており、横の空き地に軽食も扱うちょっとした喫茶店を作る事を考えている。

喜代子も協力するため、友人である竹村弓子(杉葉子)の銀行員をしている兄、健吉(三船敏郎)にお金の相談をしたり、「キッチン・ハルナ」のマスター夫婦(加東大介、沢村貞子)に料理の手ほどきを受けにいったりし始める。

そんな富田家に、昔、家を飛び出した長男の善一(千秋実)が女房子供同伴で、東京から戻って来てしまう。
どうやら、会社が倒産したらしいのである。

いつも、煮え切らない態度に終止する信二の姿を前に、次男の嫁であると同時に、店を守る立場でもある喜代子は、微妙な家族関係の中で、一人心を曇らせて行くのであった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

今観ると、典型的なホームドラマのテーマである。

テレビが放送開始したのが1953年で、この作品が作られた頃は、まだ、そういうテーマが映画でも有効だった最後の時代ではないだろうか。

やがて、ホームドラマの客層はすっかりテレビに取られてしまい、松竹をはじめ、その手の映画を得意としていた人たちは方向転換を余儀なくされる。

本作も、地味ながら、一本の映画としては、人間模様がしっかり描かれた秀作である。

信二、善一、その妻(中北千枝子)、息子たちの板挟みになる母親、そして、何といっても、何時しか孤立して行く喜代子らの、各々揺れ動く複雑な心理状況…。

どちらかといえば、大人の女性の方が、より理解できるテーマかも知れない。

どんよりとふさぎがちになる富田家とは対照的に、爽やかな兄弟を演ずる三船敏郎と杉葉子、明るい人柄の加東大介らの助演が光っている。

余談だが、劇中に登場する善一の言葉から推察するに、この当時、東京にはウエイトレスが水着で接待するという「水着喫茶」なる商売があったようだ。
さらに、当時は「キリンビール」「キリンレモン」とならんで「キリンジュース」という商品もあったらしい。

こういう、昔の風俗の一端を垣間見る楽しさも、古い日本映画を見る醍醐味の一つだろう。