TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

桃中軒雲右衛門

1936年、P.C.L.、真山青果原作、成瀬巳喜男監督作品。

明治時代の人気浪曲師を主役にした一種の芸道もの。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

上京する列車の中の様子から物語は始まる。

乗客たちのうわさ話の形で、主人公桃中軒雲右衛門(月形龍之介)の略歴が語られる。

それによると、桃中軒というのは、沼津の弁当屋の名前から拝借したものであり、女の失敗で東京にいられなくなり、女房と2人だけで横浜から都落ちした桃中軒は、九州福岡で大成功を収め、今、凱旋帰京の途中にあるという事。

しかし、途中、妾腹に生ませた息子に会う予定だった桃中軒は、横浜で雲隠れしてしまう。
慌てふためく弟子たち。

その頃、当の桃中軒は地元の料亭で一人、昔、当地で過ごした苦労時代を思い出していた。
今、名前が売れ、東京に錦を飾ろうとする自分自身に、どこか気後れを感じていたのである。

そんな弱気な桃中軒を宿で待ち受けていたのは、友人の倉田(三島雅夫)。
成長した息子、泉太郎を連れてきて桃中軒と女房のお妻(細川ちか子)に会わせるが、その息子に対し、桃中軒は再会を喜びながらも、俺は傷だらけなのだと言って聞かせる。

この後、戻った東京で成功した桃中軒が、若い芸者の千鳥(千葉早智子)に入れ揚げて、スキャンダルにまみれて行く姿を見て陰で苦悩する、お妻と泉太郎の姿が描かれて行く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

芸道だけに生き、その他の事には一切頓着しない(できない)、一種の破滅型の芸人の話なのだが、同時に、それに対峙するお妻の、女としての自分と、三味線弾きとしての芸人魂との狭間に揺れ動く心の葛藤が良く描かれている。(後年、月形龍之介は、同じような破滅型の詩人、野口雨情を森繁が演じた「雨情」という作品で、同じ桃中軒雲右衛門として登場する)

髪の毛フサフサの若き三島雅夫や、松月(しょうげつ)じいさんとして老けメイクで登場する、藤原鎌足の珍しい姿が観られる興味もあるが、本作の見所は、何といっても劇中で披露される、月形本人の声による浪々たる浪花節のシーン。

伸びやかで良く通り、実にいい声である。

戦後、悪役イメージが強かった月形龍之介の意外な才能に驚かされる作品である。