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トロン

人気映画の名シーンなどが、後にそっくりテレビCF(コマーシャル・フィルム)などに引用される事は珍しくないが、この「トロン」、公開とほとんど同時期に、映画と瓜二つなパロディCFが流れていた。

そのくらい、この映画の映像は未来的というか幻想的というか、当時としては非常に新鮮でインパクトがあった証である。

しかし、ちょっと考えると、素朴な疑問が起きるはずである。
当時、CGはまだまだ開発途上の段階、最先端の映画の技術が、どうしてあっさりCFで再現できたのか?

答えは簡単、この作品で有名になった未来的な映像の大半は、実はプロが見れば「アナログ特撮」である事は一目瞭然で、既存の技術で模倣しやすかったからである。

この作品、不幸な事に「世界初のCG映画」と大々的に宣伝されて公開されたため、多くの誤解を招く結果ともなった。

この作品の前にCGを使った映画は何本もあったし(最初の「スター・ウォーズ」などにも、すでにベクタースキャン(線画)映像は使用されている)、本作には「アナログ特撮映像」がふんだんに使用されていたのに、そういうものまでも「CG映像」だと勘違いされてしまった点である。(宣伝部は意図的にそう思わせたかったのだろうが)

確かにこの映画、「本格的にラスタースキャン映像(面処理画像)を導入している」事は事実である。
劇中に登場するメカニックの数々や、背景に使用された幾何模様のような映像などはCGである。

しかし、怪し気に光り輝く基盤模様のようなコスチュームを着た人物を中心とした部分は、全て「オプチカル合成」を使用した「特撮処理」である。
当時流行っていた「イルミナスティフィック・エフェクト(キラキラ光り輝いて見える映像)」を応用した技術に他ならない。

当時の一般の人たちがイメージしていた「CGのような映像」を『手作り』で作り出していたのである。
この時代、「CG風のCF」なども、大半は同じように「アナログ技術」で作られていた。

実際のCG映像自体がまだまだ魅力的とはいえなかった事に加え、ストーリーの陳腐さなどもあって、作品的には評価が低い本作だが、この「アナログ特撮」の魅力に関しては特筆すべきであろう。

「透過光処理」に必要な膨大な枚数のマスク用セルは、台湾のアニメ下請け会社の人海戦術で描かれ、それを元にして一コマ一コマ、丁寧に撮影して行った結果が、あの魅惑的な人物シーンなのである。

まさに「ディズニーアニメの技術の結晶」ともいうべき作業であろう。

個人的には、この「気の遠くなるような作業の結果生まれた光り輝くモノクロの人物」を観ているだけでも十分に幻想的な気分に浸れる。
CG部分はあくまでも「おまけ」のようなものといっても過言ではないくらいである。

そういう意味では、「特撮幻想映画」の一本として推賞したい作品といえよう。