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一番美しく

1944年、東宝、黒澤明脚本+監督作品。

戦時中に作られた「姿三四郎」に次ぐ、黒澤監督の2作目。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

東亜光学平塚製作所で働く女子挺身隊員たちは、所長(志村喬)の「非常増産月間」を伝える放送を聞き、現場で落ち着きがなくなる。

男性社員が訳を訪ねてみると、彼女たちのリーダーにあたる、青年隊長の渡辺つる(矢口陽子)が代表して解答しに来て「男十割り増し、女五割り増し」のノルマが不満であるという。

彼女がいうには「男と同じとまではいわないが、男の3分の2はできる」というのだった。

…お分かりのように、これは「国威高揚目的」に作られた国策映画である。
しかも、黒澤作品としては珍しく、集団女性ドラマになっている。

各々地方から出て来た挺身隊の女学生(中、高生くらいか?)たちは、全員同じ女子寮で、家族の写真に手を合わせながら健気に生活をしている。
彼女らは工場で働くだけではなく、この寮で全員鼓笛隊の練習にも励んでいる。
工場では、気分転換にバレーボールなどもしている。

こうした背景の中、当初は順調に進んでいた仕事だったが、病人、けが人が出てくるにつけ、一人一人の負担がより大きくなって行き、成績が急速に落ち込んで行く。
また、連日の疲労の蓄積は、些細な事から仲間同士の諍いも起こしてしまう。

自ら大きな目標をかかげてしまった手前、苦悩するリーダー渡辺つる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

彼女たちが工場で作らされている「戦闘機用の照準器」を、何かのスポーツやクラブ活動と置き換えてみれば、後年の「スポ根もの」などでお馴染みになる「集団目標達成ドラマ」パターンそのままの展開だし、良くある女の子たちの青春友情物語と同じ感覚で受け止める事ができる。

一見責任感に溢れ、勝ち気で冷静な主人公、つるも、実は友達思いの優しい性格であり、この仕事を通して人間的に成長して行く様もきちんと描かれている。

この作品が単なる「戦争協力映画」になっていないのは、そうした彼女たちの等身大の心を、きちんと捕らえようとしているからである。
目標達成ドラマのような作りでありながら、ラストが 安易な「目標達成!万歳!万歳!」という風にはなっていない所からも、そうした狙いがうかがえる。

そんな彼女たちを見守る周りの大人たちの目線も暖かい。

寮母の水島先生(入江徳子)、鼓笛隊の先生(河野秋武)などなど…。

偏見にとらわれず素直な気持ちで観てもらいたい、地味ながらも隠れた佳作。

主演の矢口陽子は、後の黒澤明夫人である。