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乱れ雲

1967年、東宝、成瀬巳喜男監督作品。

成瀬監督の遺作でもある。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

海外の大使館赴任が決定した通産相のエリート江田宏(土屋嘉男)の妻である由美子(司葉子)は妊娠三ヶ月で夫と同行する事になる。

しかし、由美子は、そんな幸せの絶頂から不幸のどん底へ突き落とされる事になる。

箱根に仕事で出かけた宏が、車にはねられて急死してしまったのである。

やがて、夫の葬式に現れたのは、加害者側の運転手、明治貿易の三島(加山雄三)という若者であった。

激しく憎悪の目で、その三島を見据える由美子。

死亡させた相手が関係浅からぬ通産省輸出促進課の役人だったという事、さらに、事件当時、三島の車に、接待先の外国人とその相手をさせるコールガールも同情していた事を隠ぺいしようとする会社側の意向もあり、明治貿易の武内常務(中村伸郎)は、三島に青森支社移転を通達する。

それまで2年間も付き合って来た常務の娘、淳子(浜美枝)も又、彼の元を去って行く。

しかし、裁判では、事件そのものは、三島の運転していた車のタイヤがパンクした事による不可抗力の事故であったと判定され、三島は法的には無罪となるが、生来生真面目な三島は、由美子の姉の文子夫婦(草笛光子、藤木悠)らに、毎月給料から少しづつ、合計180万の和解金を支払い続けるという約束をする。

由美子自身は、そんな金を加害者からもらう事自体に嫌悪感を感じていた。
しかし、女一人で生きて行くためには、その金にも頼らざるを得ない現実が待っていた。

姉から紹介してもらった不動産屋はすぐに潰れるし、その後勤めた喫茶店では、客からしつこい誘いを受けるようになる。

さらに、夫であった宏の京都の実家からは、体よく籍を抜かれてしまうのだった。

やがて、彼女の実家の旅館「しのへ」を継いでいる義理の姉の勝子(森光子)から、帰って来て一緒にやらないかと誘いを受けた由美子は、迷った末、郷里の青森に帰る事になる。

旅館「しのへ」では、未亡人となっていた勝子が、妻子持ちの男、林田(加東大介)と夫婦気取りで付き合っていた。
林田は、仕事欲しさに、関係先の営林署の所員たちを頻繁に「しのへ」で接待していたが、そのうちの一人と帰って来た由美子を結婚させて、自分が得な立場に立とうと目論んでいる様子。
由美子は、又しても、そんな窮屈な立場になった自分に孤立感を感じる。

やがて、由美子は、地元で働いている三島と再会する事になり、運命は動き出す。

三島は、出会った由美子の拒絶反応もあって、かねがね、転勤を本社の藤原部長(中丸忠雄)に打診していたのだったが、それが裏目となって、誰も行きたがらない西パキスタンのラホールへ飛ばされる事になる。

由美子にとっては、自分を不幸に陥れた憎い加害者でしかない相手側にも、事故以来、それなりに深く傷付き、苦しみ抜いている姿があったという事実を彼の母親(浦辺粂子)から謝罪と共に聞かされた彼女は、徐々に三島に対する気持ちを変化させて行く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

目まぐるしい運命の荒波にもまれながら、揺れ動く女心をじっくり描いた秀作。

十和田湖を中心とした美しい夏の青森の風景が実に素晴らしく、二人のはかない逢瀬と別れを優しく包み込む。

同じ成瀬作品「乱れる」では、どこか世間に甘えたような若者を演じていた加山だが、本作では、さらに成長した大人のエリートサラリーマンをきっちり演じ切っている。

それを受け止める司葉子のどっしりした芝居も見ごたえがある。

愛人、林田を独占しようと、長年本妻と渡り合っているらしい、勝ち気な旅館の女将を演じる、森光子のバイタリティ溢れる演技も印象的。