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ジャコ萬と鉄('64)

1964年、東映東京、黒澤明+谷口千吉脚本、深作欣二監督作品。

1949年の谷口千吉監督作品「ジャコ万と鉄」のリメイク。

旧作との主要な人物の配役の相違をあげると、

鉄 三船敏郎→高倉健
ジャコ萬 月形龍之介→丹波哲郎
積丹の九兵衛 新藤英太郎→山形勲
鉄の姉マサ 清川虹子→南田洋子
マサの亭主正太郎 藤原鎌足→大坂志郎
おゆき 浜田百合子→高千穂ひづる
鉄が見守る少女 久我美子→入江若葉

…などとなっているが、本作は前作に勝るとも劣らない見事な秀作に仕上がっているのに、まず驚かされる。

基本的に構成はほとんど同じである。

ニシン漁を間近に控える強欲な九兵衛の漁場に「やんしゅう」たちが集結してくる。
その中に、かつて、九兵衛に船をだまし取られた密猟者、ジャコ萬が混じっており、番屋に居座る。
そんな時、海で死んだと思われていた九兵衛の息子、鉄がふらりと帰ってくる…。

ストーリーは律儀に前作をなぞって行く。

若干、相違点があるとすれば、鉄が土曜日ごとに山を越え、秘かに憧れていた少女に会いに行くシーン。
前作では、教会のオルガン弾きをしている少女を遠くから眺めている…という設定だったが、本作では、鉄がかつて船員仲間だった友人の写真をその親族に持って行ってやる…という設定に置き換えられている。

父娘なのか、兄妹なのか、鉄が訪ねた家族は二人きりで凍えた土地を開墾している。
鉄は写真を渡した後、無言で硬い木の根っこを斧で切り出す。
父の方も、そんな鉄の行為を無言で見遣り、自分も同じ根っこに斧を入れる…。

前作では、内気な鉄の、おそらく声をかけた事もない少女に対する個人的なほのかな憧れを描いていて好ましかったが、本作の設定も爽やかで心あたたまる。

こちらの鉄は、特に初対面である少女個人に憧れを持っている訳ではない。
友人の妹が明るく元気に暮している姿を見て、安心しているのである。

三船の鉄も奔放で良かったが、健さんの鉄も見事というしかない。
本当に、裸一貫で冬の荒海に飛び込んでみせたりする。

山形勲の九兵衛、丹波哲郎のジャコ萬、高千穂ひづるのおゆきらも、すべて良いが、とりわけ、ヘタレな義兄正太郎を演じている大坂志郎の存在感が目を引いた。
本当に情けない男をうまく演じきっている。

鉄の優しい祖母、浦辺粂子、病気がちの謎の学生(本作では大阪弁をしゃべる、訳ありの男になっている)を演じる江原真二郎も記憶に残る。

荒れ狂う冬の海の描写なども素晴らしく、若き深作監督の才能に唸らせられる事請け合い。

「ジャコ萬と鉄」に関しては、オリジナル、深作版、どちらを観ても傑作と言える。
優劣は付けられない。
「働く男たちの熱いドラマ」を描いた名作中の名作。