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晩春

1949年、松竹大船、小津安二郎監督作品。

妻に先立たれた初老の大学教授が、自分の面倒を見ているうちに婚期を逸した一人娘を心配し、嫁がせるまでを描いた静かな物語。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

27になる紀子(原節子)は、離婚歴のある級友アヤ(月丘夢路)から「結婚しちゃえ!」とけしかけられても、笑って「結婚なんてしないわ」と答えるような娘。

紀子は、東京で出会った父の知人の小野寺(三島雅夫)に対し、彼が最近再婚した事を「不潔」と決めつける。

そんな紀子の事が気にかかるのが伯母のマサ(杉村春子)、紀子の父である、兄の曾宮周吉(笠智衆)に結婚相手の事をそれとなく問う。

周吉の仕事の手伝いをしている助手の服部(宇佐美淳)などとは、仲が良さそうなので良いのではないかと、ある日の食卓で周吉が紀子に尋ねると、紀子は笑い飛ばし、服部にはすでに結婚相手が決まっていると、あっけらかんと答える始末。

業を煮やしたマサは、紀子に見合い話を持ちかける。
自分がいないと父親の面倒を見る人間がいなくなると答えを渋る紀子に、マサは、周吉にも再婚の話がある事を打ち明けると、急に紀子の態度が硬化する。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

父親との二人だけの生活にある種の安心感を抱いていた娘が、自分の結婚話より、父親の再婚話を聞かされた事に強く動揺し、その後、心に暗い影が落ちて悩んで行く様を描いて行く。

一見、屈託なさげに見える紀子だが、戦争中に無理をしたせいで、しばらく身体を壊していた…などいう前半の伏線が、彼女のキャラクターを見せ掛けよりもより複雑なものに感じさせる。

それまで、屈託のない笑顔ばかりを見せていた紀子が、この時を境に、急に冷たい目線の女性に変ぼうする様は、虚無感というか、彼女の心の暗さを象徴しているようで、見ていてゾッとさせられる。
黒澤明の松竹作品「白痴」(1951)で、同じ原節子が演じる事になる那須妙子に通ずる凄みを感じさせるのだ。

父親周吉の本心は最後の方まで分からないのが、本編のミソであろう。

相変わらず、杉村春子演ずる下世話なおばさんの役作りがうまい。

互いに相手の事を思いやる父と娘の間に繰り広げられる、一見平凡だが、心理的には微妙な揺らめきが水面下で起こっている日常生活。

淡々とした描写の裏に、その互いの心の葛藤が見事なエンディングに集結して行く。

心に残る名品の一本である。