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上意討ち 拝領妻始末

1967年、三船プロ、橋本忍脚本、小林正樹監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

会津藩馬廻り役、笹原伊三郎(三船敏郎)は、盟友、浅野帯刀(仲代達矢)と並ぶ剣の使い手。
しかし、家では、わがままな妻、すが(大塚道子)の養子として20数年間、耐え忍ぶ暮らしを送っていた。

そんな笹原家にある日、御用人、高橋外記(神山繁)が訪れ、とんでもない話を切り出す。

殿である、松平政容(松村達雄)との間に菊千代という子供を生んだおいちの方(司葉子)が、事情があってお暇を出されたので、伊三郎の長男、与五郎(加藤剛)の妻として迎えてもらいたいというのである。

すがは大反対する。
聞く所によると、おいちの方は、産後、新しい殿の側女となったおたまの方に殴り掛かり、あろう事か殿本人にも手を上げたというのだ。

そんな女を妻に迎えれば、後々、何かと問題が起こるというのである。
しかし、上からの申し出は命令に等しく、立場上断る事もできない。
何とか、辞退しようと願い出る伊三郎であったが、当の与五郎が嫁に迎えたいと言い出す。

結局、嫁にもらったいちは、思いのほか慎ましい性格で、両親を立て、夫に尽くす良妻であった。
いちがある夜告白した所によると、自分が19だったおととし、許嫁があったにもかかわらず、無理矢理その関係を清算させられたあげく大奥へ召し上げられ、自分はもうそういう惨い仕打ちをされるのは自分限りにして欲しいとの思いで自分を殺し、子供を生んだ。
ところが、新しい側女は、彼女とは違い、自分の境遇を喜んでおり、鼻にかけているようなそぶりさえ見せた、それが耐えられなかった…という。

もはや、菊千代の事も忘れるといいきるいち。

その打ち明け話の夜から、与五郎といちは深い絆で結ばれて行く。
二年後には、とみという赤ん坊も授かり、伊三郎も心穏やかな日々を過ごしていた。

ところが、そんな中、城では殿の長男が病気で急死、その結果、いちの生んだ次男菊千代が世継ぎになる。
問題はここから複雑化していく。

御世継ぎの母親が一介の家臣の妻ではおかしい、ついては、もう一度、大奥に戻れという達しが上から笹原家にもたらされる。

そのあまりに身勝手というか、理不尽な申し出に与五郎、伊三郎は憤慨する。
しかし、断れば、笹原家のみならず、親戚一同にまでおとがめが及ぶ恐れがある。
すがと与五郎の弟、文蔵(江原達怡)は、お家大事、いちを城へ戻すよう強い態度に出る。

しかし、いちは、親類一同の前で、与五郎と添い遂げると断言する。
いちの気持ちと、母親や親類一同の気持ちの板挟みになった与五郎は、父と妻だけになった所で、いちに、城へ戻ってくれと涙で迫る。
そんな息子をしかりとばした伊三郎、二人の愛を見て、長い間、耐え忍ぶ生活だけを心情としていた自分の考えが変わったといいだすのだった。

そうして、一旦は、そのまま笹原家に残ったいちであったが、後日、文蔵にたぶらかされて家老(三島雅夫)の所へ連れて行かれ、そのまま城へ戻されてしまう。

赤ん坊のためには、きく(市原悦子)という乳母が通ってくるようになる。

これで、表面上は一件落着したかに思えたが、伊三郎と与五郎は、体面上、上から求められている「妻の返上願い」を頑として提出しないばかりか、とうとう、いちを戻せという「嘆願書」を家老たちに突き付ける。

伊三郎と与五郎の二人は、すでに「死」を覚悟していたのである。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

同じ小林正樹監督の名作「切腹」に似た「武士道残酷物語」のような内容。
体面大事、お家大事で、人間性を踏み付けにされる一人の女性と下級武士の悲哀、そして、彼女、彼らの最後の抵抗が描かれている。

端正な画面構成と冷徹な視線が、物語の残酷さ、悲壮さを浮き彫りにして行く。

三船の壮絶な最期が心に焼き付く、「切腹」と並ぶ時代劇の名作である。