1950年、藤本プロ、石坂洋次郎原作、成瀬巳喜男監督作品。
原作者が疎開していた、故郷、青森で見聞きしたのんびりエピソードを綴る三話からなる。
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最初のエピソード「隠退蔵物資の話」は、石中先生(宮田重雄)の住まいに、知人の中村(渡辺篤)がツルハシ片手に、一人の青年を連れてくる所から始まる。
聞く所によると、その青年、河野(掘雄二)は、戦時中、ガソリンを詰めたドラム缶を大量に土中に埋めた事がある…そのドラム缶を掘り出しに行こう、というのである。
半信半疑の話だが、石中先生も興味本位で彼らに付いて行く。
お目当ての場所はりんご園。
園主、山崎(新藤英太郎)に断り、さっそく場所を探し出そうと河野に確認するが、ここへ来て急に河野の態度が曖昧になる。
実は、ガソリンの話は全て河野の嘘で、彼の本当の目的は、園主の娘。モヨ子(木匠久美子)だったのである。
りんご園での若い二人の熱い打ち明け話を立ち聞いてしまった石中先生は、呆れるやら、当てられるやら…。
第二話「仲たがいの話」は、古本屋の主人、山田(藤原鎌足)と、友人の客、木原(中村是好)が、地元にやってきた、いかがわしいエロショーのポスターを見て、最初は眉を潜めていたものの、つい好奇心とスケベ心にかられて見に行ってしまう所から始まる。
それに憤慨したのが、山田の一人娘、まり子(杉葉子)。
恋仲である木原の息子、俊一(池部良)を呼出す。
二人をとっちめてやろうと、劇場の前で待ち伏せしていたまり子と俊一だったが、いざ、互いの両親が出てきて、どちらが誘った、誘われた…という、責任のがれの言い訳を聞いているうちに、若い二人も、自分の親の方を信じたい気持ちが勝り、何となく言い合いになってしまう。
互いに気まずい関係になってしまった両家の4人、別々に相談に訪れた石中先生の家で偶然にも鉢合わせする事に。
結局、若い二人が、本当は愛しあっている事が分かり、その事がきっかけとなって親たちも心を緩める結果となる。
第三話「千草ぐるまの話」
若い娘のヨシ子(若山セツ子)は、入院した姉を見舞いに町の病院を訪れる。
そこで、良く当てると評判の男から手相を見てもらう。
すると、今日中に結婚相手と出会う…というではないか。
帰路、偶然であった知り合いの荷車に載せてもらって、途中の茶屋まで来たヨシ子だったが、一服した後、一眠りしようと乗り込んだ荷車は、実は全く別人のものであった。
夕方、見知らぬ農家の前で目覚めたヨシ子の目の前にいたのは、髭もじゃで、全く口も聞かない無骨な男、貞作(三船敏郎)であった。
しかし、その晩、その家に泊めてもらったヨシ子は、飾らぬ貞作の家族の人柄に急速に親しみを覚えていく。
一緒に村祭りに出かけた貞作は、少しづつ、ヨシ子に笑顔を見せて、とつとつと語りかけるようになって行く。
前年公開され、大ヒットした「青い山脈」と同じ藤本プロの作品という事もあり、その人気を意識したような「楽屋落ち」演出が随所に見られる。
「仲たがいの話」に登場する若い恋人二人は、「青い山脈」の主役コンビ。
「千草ぐるまの話」の劇中、映画好きのヨシ子が一人で観ているのは、「青い山脈」での自分(若山セツ子)自身の登場場面。
最後には、御丁寧にも、三船と二人で「青い山脈」の歌を歌ってしまう。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
全編、どうという事のない日常ドラマだが、観ていて実にすがすがしい。
どのエピソードも、若い男女の素朴な恋愛話を中心に描かれてあるからかも知れない。
地方の人たちの、飾らない、暖かい心根に触れたようで、本当にいい映画を観た!…という実感が湧いてくる。
一人でも多くの人に観てもらいたい、紛れもない日本映画の名作の一本。
