TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

第五福竜丸

1959年、近代映画協会+新世紀映画、脚本八木保太郎+新藤兼人、新藤兼人監督作品。

1954年に起きた「第五福竜丸事件」を丁寧に再現したドキュメンタリータッチの作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

1954年1月22日、大勢の家族たちに見送られ、焼津港から一隻のマグロ遠洋漁業船「第五福竜丸」が出航する。
乗組員は屈強な若者を中心にした23名。

当初、彼らの船は、安いキハダマグロより、高く売れるメバチマグロを狙おうと、ミッドウェイ島付近で操業するも収穫はほとんどなく、このまま帰港すれば赤字になってしまうと判断した漁猟長たちはビンチョウマグロに目標を変更、マーシャル諸島ビキニ環礁東方に向う事になる。

そこで一応の収穫を終えた乗組員たちが、やれ一安心と夕食の時間を待っていた3月1日未明。
甲板上にいた無線長たち数名は、西の空に巨大な光の玉を見る。

異様な光景に、甲板上に集結した乗組員の中には「西からお日さまが登った」などといいだす者も。
しかし、誰もその異変の正体は分からない。
最初の光芒から約7分後、壮絶な轟音が彼らを襲う。

無線長、久保山愛作(宇野重吉)は、船員たちに出発準備を命じながらも、光と音の時間差から、光の中心地を75海里先(約160km)と冷静に判断する。
時間は午前3時45分。

3〜4時間後、脱出の準備に追われていた船員たちの上に、雪のような灰が大量に降り注ぎはじめる。
その正体も分からない。
久保山などは、何だろう?と、手に付いたその灰を舐めてみる始末。

3月14日、焼津港に戻ってきた第五福竜丸を出迎えた船主は、真っ黒な顔に変ぼうした船員たちを見る事に。
久保山は船主を招き寄せ、「自分達はピカドンを見てしまったらしい。アメリカからスパイ扱いされるかも知れないので、今まで無線などでは誰にも知らせていない。一応病院にいってくる」と告げる。
しかし、その日は日曜日。

開いていた病院で診察を受けた船員たちのうち、特に体調が悪い二人は、念のためにビニール袋に集めておいた「謎の灰」を持たされ、東京の病院へ。
顔が黒くなったのは「火傷」だからと、ヨーチンを塗る程度の簡単な治療で帰されている。

この時点では、さほど、騒ぎは起きていない。
町で彼らの異様な顔を見た人たちが驚くくらい。
持ち帰ったまぐろはそのまま水揚げされている。

大半の船員たちは格別体調が悪いという訳でもないので、そのまま帰宅したり、飲み屋にいったり、恋人に会いにいったりしている。

久保山も、まぐろを手みやげに、幼い三人娘と妻しず(乙羽信子)の待つ自宅に普通に帰っている。

第五福竜丸が水爆実験に遭遇したらしい…という噂は、市民からの電話によって、新聞社支局勤めのかべ記者(中谷一郎)にもたらされる。

本社に連絡したかべ記者は、船の写真を撮るために、写真屋(中村是好)を夜の港に連れ出す。

翌朝、新聞に事件の事が載った瞬間から騒ぎは始まる。

再び集合させられた乗組員たちは、学者たちから不思議な機械を身体に近付けられる。
その機械、ガイガーカウンターは、たちまち「ガーガー」音を立てはじめる。
ここへきてはじめて、彼らは自分達全員が「被爆」していた事実を知る事になる。

新聞記事を読んだ市民たちのうち、第五福竜丸の船員に接触した女性たちや、持ち帰ったまぐろを食べてしまった者(三井弘次)らはパニックを起こし出す。

全国から専門学者や医者、政府関係者たちが焼津に集結し、船員たちが持ち帰った「謎の灰」の正体を突き止めるため、京大の木下博士(千田是也)の分析が始まる。
丸刈りにさせられた船員たちは東京の二つの病院へ移送させる事に…。

「第五福竜丸」後半は、東京の病院に移された船員たちと、臨床医たちを中心とした療養生活が淡々と描かれて行きます。

アメリカとの補償交渉も難航します。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ラストは、ほぼ事実そのままを描いていると思われますので、ここでは書きません。
正直、涙を禁じ得ません。

「ゴジラ」(1954)の劇中、何故、ゴジラに襲われた後の病院で、子供にガイガーカウンターを近付けるシーンがあるのか、何故、「平和を願う歌」を大勢の女学生たちが歌うシーンがあるのか、「GMK〜」で、何故、ゴジラが焼津港に出現し、そこで原子雲が立ち上るのか…、この作品を観ると良く分かるような気がします。

映画としても、実に良く出来た作品だと思います。
事件もの特有の、重く暗い感じはほとんどありませんし、独立プロ製作映画ながら、安っぽいイメージも全くありません。堂々たる力作になっています。

前半は明るい音楽と軽快なテンポで、のびのびとした「海洋もの」のような調子で描かれて行きます。
船内での、屈託のない、普通の若者たちの生態がていねいに描かれています。
焼津で騒ぎが起こりはじめる途中部分も、右往左往する人間たちの様子が、ちょっぴりユーモラスに描かれています。

後半は、博士役の千田是也(「大怪獣バラン」での杉本教授役)はじめ、白衣姿の学者たちが登場しはじめるので、何だか「怪獣映画」を観ているような雰囲気もあります。

役者陣も多彩で、第五福竜丸の漁猟長(?)には稲葉義男、船員の中には田中邦衛の姿もあります。
学者の一人は十朱久雄、医者の一人は原保美(SRI)、政治家の一人は小沢栄太郎、焼津の市役所の人間として殿山泰司…。

「ゴジラ」より後に作られた作品ですが、描かれている事件そのものは、まさに「ゴジラ」が作られる直前の出来事。

その当時の、事件に対する日本や世界中の反応がどうだったのかを伺い知る手がかりにはなります。

なお、問題の水爆遭遇シーンは、特段、特撮のような作りにはなっていません。
おそらく実写フイルムを使っているのだと思います。
そのフイルムに合わせるためか、それとも撮影上の都合からなのか、この水爆に遭遇する直前の船は昼間のように描かれています。

実際は、未明の出来事ですから、もっと暗い時間のはずなのですが…。

日本人は広島、長崎で「世界で最初の原爆犠牲者」になっただけではなく、この「第五福竜丸事件」で、「世界で最初の水爆犠牲者」にもなっていたのだ…という事実を、改めて思い知らされた貴重な作品でした。