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悪い奴ほどよく眠る

1960年、黒澤プロ&東宝、黒澤明監督作品。

黒澤プロ第一回作品である。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

豪華な結婚式場から物語は始まる。

日本未使用土地利用公団の副総裁、岩渕(森雅之)の、足が不自由な一人娘、佳子(香川京子)と、西幸一(三船敏郎)の結婚式であったが、その席に、大勢の新聞記者たちが詰め掛けている。

公団と大竜建設との汚職事件について取材をしたがっているのであった。
そんな中、捜査二課の刑事(藤田進)がやって来て、公団の管理補佐、和田(藤原鎌足)を参考人としてその場から連れ去ってしまう。

さらに、大竜建設が落札した新庁舎を模したウエディングケーキが式場へ運び込まれる。
その7階の窓にあたる部分には、一輪の真っ赤なバラがさしてあった。
その窓は、かつて、汚職事件に関わった一人の男が身を投げた所であった。
それを見て狼狽する式場の関係者たちと、外で事態の展開を面白がる新聞記者たち。

事件を追求する検事、野中俊一(笠智衆)は、部下の岡倉(宮口精二)が尋問中であった公団経理係、三浦(清水元)を一旦釈放した後、その場で、別件で逮捕しようとするが、迎えに来ていた弁護士(中村伸郎)から、会社の意向を伝えられた三浦は、事務官(土屋嘉男)らの目の前で、走って来た自動車に飛び込み自殺してしまう。

同じように、噴煙立ち上る地獄谷の火口に身を投げようとやって来た和田は、突然出現した西に阻止される。

地獄谷に残された遺書から、死んだと思われ、公団から盛大な葬式が出された和田の自宅の側に、当の和田を乗せた西の車が止まっている。
やがて、焼香に訪れて着た公団の管理部長、守山(志村喬)と契約課長、白井(西村晃)の姿を前にして、西は、事前に盗み録音していた彼らの本音を、車内の和田に聞かせる。
戸惑う和田。
副総裁の義理の息子になったはずの西の真意がつかめないからだった。

やがて、公団から500万円の隠し金を預かっていた白井が、その金が紛失したと岩渕と守山に報告する。
しかし、その500万は、当の白石の鞄の中から見つかる。
疑われた白石は、帰宅途中の夜の路上で、死んだはずの和田の姿を見かける。
しかし、狼狽する白石のその報告も、誰も信じようとはしなかった。
白井は徐々に精神のバランスを崩して行く…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

今でもそのまま通用しそうな、利権を巡る汚職事件を背景にした復讐劇である。

自殺させられた父親の復讐を果たそうしながらも、宿敵の娘である新妻に愛情を感じてしまった男。
子供の頃、自分の過失から、障害を与えてしまった妹を親身に思い続ける兄(三橋達也)。
周囲の事情を知らないまま、孤立する女。

そうした複雑な人間模様が、物語に深みを与えている。

だが、こうした根深いテーマに、すっきりとした結末などあるはずもなく、本作もその例外にはなっていない。

西の旧友、板倉(加藤武)の最後の悲痛な叫びが、民衆の無力感を象徴しているようで、後味はあまり良いとはいえないながら、豪華な出演者たちの重厚な演技は見ごたえ感がある。

妻(菅井きん)が涙している西の葬式での場面、西の車の中では、上司たちの本音と一緒に、テープに録音されていた、キャバレーの明るいラテンのリズムが高々と流れる皮肉な演出など、黒澤らしさが光る。