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東京物語

1953年、松竹大船、野田高梧脚本、小津安二郎脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

尾道

小学生らが、朝、学校に向かってる。

機関車が走りすぎて行く。

小学校の教師をしている末娘、京子(香川京子)と暮している平山周吉(笠智衆)、とみ(東山千栄子)夫婦は、東京に住む子供たちに久々に会うために上京することにし、その準備をしていた。

周吉は、時刻表を確認し、これなら、大阪には6時じゃなと言い、それを聞いたとみは、敬三も引いた頃ですなと応ずる。

とみに弁当をて和さし学校に出かける京子に、忙しければ来てくれなくて良いと言う周吉に、どうせ5時間めは体操ですからと京子は答える。

見送りに行くと言うのだ。

京子が出かけた後、空気枕をどちらのバッグにしまったかで、ちょっと夫婦言い合いになっている所に、

隣の細君(高橋豊子)が今日お発ちですか?と声をかけて来たので、昼過ぎに出発するととみが答え、しばらく留守にするがよろしくと周吉も挨拶する。

その直後、空気枕は周吉の方のバッグに入っていたことが分かる。

東京下町で開業する内科、小児科の「平山医院」では、尾道から上京する義父母の為に、妻の文子(三宅邦子)が掃除をしていた。

下の子の勇(毛利充宏)に、散らかしちゃだめよと注意している時、中学生の実(村瀬禅)が帰って来て、勉強机が、廊下に出されていることに気づくと、勉強できないじゃないか!もうすぐ試験なのにと文子に文句を言いに来る。

日頃、勉強なんかしないくせに!と言われても、実は抗議を止めようとしなかったので、文子が閉口している時、夫の幸一(山村聡)が、周吉ととよ、そして、妹のしげ(杉村春子)を車で連れて帰って来る。

しげは文子に、紀子は東京駅に来ていなかったと知らせる。

実と勇が周吉ととみに紹介された後、幸一から風呂にでも入ってくれと勧められ、大阪駅には敬三も来ていたかなどと聞いて来る。

両親は、来とったと答え、浴衣に着替える為二階に上がる。

文子としげが、夕食のおかずのことで相談している時、紀子(原節子)がやって来る。

二階に上がり、浴衣姿に着替えた周吉ととみに挨拶をする紀子は、戦争で亡くなった次男正二の妻だった。

周吉は、又、前の会社でお勤めか?などと聞き、とみも、あんたも一人で大変じゃのうなどと声をかけながら、足労をかけたことを感謝する。

下に降りて来たとみの姿を見たしげは、お母さん、又大きくなったんじゃない?

昔、学芸会の時、イスを壊したことがあるなどとからかう。

夕食後、実は感心にも、英語の勉強を始める。

しげや幸一は、両親に、尾道に住んでいた懐かしい人々の安否など聞く。

周吉は、映画館をやっとった服部さんは東京の台東区に来ているなどと教える。

紀子としげが帰った後、二階に上がった周吉ととみは、ここは東京のどの辺でしょう?自動車で遠かったのではずれの方だろう。

幸一も、にぎやかな所に出たいと言っていたけど、そうもいかんのやろうなどと話し合う。

「うらら美容院」を経営しているしげと、夫金子庫造(中村伸郎)は、金砂亭でも案内するかな、その内、兄さんが、どこかに連れて行ってくれるでしょうなどと話しながら朝食をとっていた。

数日後、周吉ととみは、娘のしげがやっているの世話になる。

幸一と、実、勇たちは、周吉ととよを外に連れ出す為着替えて待っていたが、二人が着替え終わった頃、子供が高熱が続いていると言う急患が尋ねて来たので、幸一は往診に行く事になる。

周吉ととよは事情を察し、すぐに承知するが、出かけるのを楽しみにしていた実と勇はすね始め、特に、ほとんど遊びに連れて行ってもらったことがない実は、つまんねえや!といつまでもだだをこね、文子を困らせる。

その時、とみが子供たちを近所に連れ出そうとし、勇はついて行くが、実の機嫌は直らなかった。

家に残った周吉は文子に実はどうした?と心配し、幸一も小さい頃は強情っぱりだったと教える。

文子は、外出できなくなったことを恐縮し、今度の日曜日にでもと誘うが、周吉は、そろそろしげの所へも行ってやろうと思っとると告げる。

外の土手の上では、とみが幼い勇を遊ばせながら、大きゅうなったら何になるん?お父さんみたいにお医者かい?などと話しかけていたが、勇が答えないので、あんたがお医者さんになる頃は、おばあちゃん、おるかの?と独り言をつぶやく。

しげの店「うらら美容院」

浅草から帰って来た庫造は、二階に泊まっている義父母のために、菓子を買って来たと言うが、それを食べながらしげは、こんな高いもの…、煎餅で良かったのよなど言いながら、明日二人をどっかに連れて行ってくれない?と頼むが、庫造は明日は集金なのでダメだと言い、金砂亭でも連れて行くかと提案し、東京来てからずっと二階じゃ可哀想だよと同情する。

しかし、しげは、連れて行く人ないんだものとぼやく。

菓子を持って二階にあがった庫造は、縫い物をしているとみと、物干し台の上にあがっていたいた周吉に銭湯に行こうと声をかける。

三人が出かけたあと、米山商事に勤めている紀子に電話を入れたしげは、明日暇だったら、両親を東京見物に連れて行ってくれないかと相談する。

紀子は上司の許可をその場でもらい、明日9時に迎えに行くと約束する。

翌日、観光バスで銀座や皇居を観終わったあと、デパートの階段の踊り場から都内の風景を見渡しながら、紀子は、幸一やしげ、自分の住まいなどの方向を、とみに聞かれるまま教えたりする。

その後、アパートに帰って来た紀子は、部屋にやって来た周吉の為に、隣の主婦(三谷幸子)に酒を借りに行く。

部屋で待っていた周吉ととみは、八年前に戦死した次男正二の写真がまだ飾ってあったのを、懐かしそうに観ていた。

酒を勧められた周吉はうまそうに飲み始め、とみは、昔からこの人は好きだったが、正二はどうだった?と紀子に聞く。

いただきました。時々、友達を連れてきました。今頃思うと、懐かしい気がしますと紀子は答える。

今でも生きているのではないかと、時々この人と話しているととみが言うと、もう死んどるよ、8年もなるんじゃものと周吉は答え、二人は、紀子に苦労をかけると恐縮する。

その頃、しげと美容院に寄った幸一は、帰りの遅い両親を待っていた。

しげは、いつまで東京にいるのかしら?などと困り顔をし、幸一に3000円ばかり出してくれないか?自分も出すから、それで二人を熱海にやったらどうか。このごろ忙しいのだと提案する。

それを聞いた幸一や庫造も賛成する。

しげは、言い訳のように、うちにいても、何もしてやれないんだものとぼやく。

こうして周吉ととみは、熱海の旅館に向かうが、昼間は静かだった旅館も、夜になると酔客たちの麻雀の音や流しの歌(三木隆)や音楽がうるさく、二人ともなかなか寝付く事ができなかった。

翌朝、浜辺の堤防へ出かけた二人だったが、こんな所は若いもんの来る所じゃとつぶやき、京子はどうしているだろう?などと急に里心が出て来たのか、もう帰ろうかなどと話し合う。

その頃、旅館では、女中二人(田代芳子、秩父晴子)が部屋の掃除などしながら、夕べの泊まり客の新婚夫婦について無駄話をしていた。

旅館に戻ろうとした周吉は、とみがちょっと立てなくなり、ちょっとふらっとしたなどと言うので、夕べ寝られなかったからだろうと声をかける。

その日、美容院に戻って来た二人を見たしげは、もう帰って来たの?もっとゆっくりすれば良いのに…などと、どこか迷惑気な様子で迎える。

今週は講習会で忙しいと言うのである。

一旦二階に上がり、これ以上しげの所にいられないことを知った二人はどうするか話し合った末、とみは紀子の家に泊めてもらうことにし、周吉は服部を訪ねてみることにする。

とうとう宿無しになってしもうたと、周吉は漏らす。

その後二人は上野公園で時間をつぶした後、別れることにするが、改めて、東京の町並みの広さを眺めながら、うっかりこんな所ではぐれたら、一生、会えやせんよなどと口にするのだった。

周吉の方は、代書屋をやっていた服部(十朱久雄)の家に来るが、服部と妻のよね(長岡輝子)は歓待してくれたものの、パチンコ屋に出かけるため降りて来た法科の学生に二階は貸していると言うので、泊めてもらえないことはすぐに察する。

よねは、何のもてなしもできないので…と恐縮するし、服部は、尾道で警察署にいた沼田も東京にいるので呼びましょうか?と言うので、周吉は服部について料亭に出かけることにする。

沼田(東野英治郎)も周吉を懐かしがり、戦争で亡くした子供の話などから、子供と言うものはおらんと寂しいし、おったらおったで、だんだん親を邪魔にしおると愚痴り始める。

その後は、おでん屋「加代」で飲み直すことになった三人だが、服部は既に寝ており、女将(桜むつ子)は露骨に、深夜の酔客に迷惑がる。

息子が印刷会社の課長で、今では楽隠居と服部から聞かされていた周吉が、沼田にそのことを聞くと、体裁が悪いので、世間には課長と言っとるが、本当はまだ係長で、遅う生まれた一人子で甘やかし過ぎた。子供は、親が思うほどにはやってくれませんな。敢闘精神が何もない!わしは哀しくなって来たなどと憤り始める。

それを聞いていた周吉も、わしも、もちっと良くなっとると思っとったが町医者です。子供に期待するんは親の欲。諦めなければいけん。東京は人が多すぎるのじゃ。良いと思わないかんやろとつぶやく。

沼田は、今時の若いのは平気で親を殺すものもいる。それに比べればまだましか…と同調するが、奥の座敷でいら立っていた女将は、もう12時よ、どうするのその人?と不機嫌そうに声をかけて来る。

一方、紀子のアパートに泊めてもらうことにしたとみの方は、紀子から肩などもんでもらい感謝していた。

正二用だった布団に横になったとよは、今日は長かった。熱海からしげの所に寄って、上野公園に行って、方々で厄介になった…とつぶやく。

そして、紀子に、8年もなるのに、あないに正二の写真を飾っているのを見ると、私ゃ、あんたにすまんと思って…。良い人があったら、いつでも気兼ねなくお嫁に行って下せえよと声をかけ、紀子も、良い所ありましたら…と笑って答える。

とみが、あんたには苦労のかけどうしで、すまん、すまん思うて…と言うと、紀子は、私、この方が気楽なんですと答える。

年を取って来ると、やっぱり一人じゃ寂しいから…ととみが続けると、私は年を取らないようにしてますからと紀子は返すので、やっぱりええ人じゃ、あんた…ととみは感心するのだった。

夫と共に就寝していたしげは、玄関を叩く音で目覚め、起きて来ると、交番の高橋だと言うので、ドアを開けると、泥酔した周吉と沼田が入って来る。

せっかく止めてたのに、又飲んで…と、父の姿に苦りきったしげは、京子が生まれた頃から止めていたのに、今日はもう帰って来ないと思ったのに、嫌になっちゃうな。だから、お酒飲みは嫌いさ…とぼやきながら、夫を二階に行かすと、自分たちが寝ていた布団に二人を寝かせることにする。

翌朝、紀子は、出社する前に、一緒に出る支度をすましたとみに小遣いを渡す。

とみは遠慮するが、結局いただくことになり感謝し、一度、尾道の方へも遊びに来てくれと誘う。

紀子は、もう少し近ければ…と恐縮し、何しろ遠いけんの…ととみも頷く。

とみがタンスの上に歯ブラシを置き忘れているので渡した紀子は、最近、よう忘れるんよと言うとみが部屋を出る時、傘も吊るしたまま忘れているので、笑いながら持って行く。

東京駅で21時の急行を周吉と共に待つとみは、見送りに来てくれた幸一、しげ、紀子らに、もしものことがあっても、来てくれなくても良いと言い出したので、しげは変なことを言わないでよと諭す。

翌々日の大阪駅、出勤して来た三男の敬三(大坂志郎)が、昨日はすまなかったと同僚に挨拶をし、列車でやって来た母が急に具合が悪くなったので、貸し布団借りたり、医者を二度も呼んだり大変だったと話すと、同僚(安部徹)が、お母さん、いくつだと聞く。

敬三は、67、8やったかなとあやふやな答え方をするので、親孝行、したいときは嫌はいずやと忠告する。

敬三のアパートで休んでいた周吉は、薬を飲んでもう大丈夫と言うとみに、列車が混雑しとったから酔ったんじゃろう。明日の空いた列車で帰ろうといたわっていた。

とみは、10日ほどの間に、子供たち皆に会えて良かった。孫の方が子供より可愛いと言うがどうでしたと聞く。

周吉は、やっぱり子供の方がええのうと答える。

しげも子供の頃は優しい子やった。幸一も、もっと優しい子やったと二人はちょっと嘆くが、わしらは幸せな方だと慰め合うのだった。

数日後、周吉からの手紙を読んでいた幸一は、とみが記者の中で具合が悪くなり、大阪で降りたが、10日の昼過ぎに尾道に着いたらしいと文子に読んで聞かせる。

文子が、東京は満足なさったかしらと心配するので、当分、東京の話で持ち切りだろうと幸一も答えるが、そこにしげから電話が入り、今、母さんが危篤だと言う京子からの電報を受け取ったと言って来る。

手紙を読んだばかりの幸一は首を傾げるが、そうこうしていると、幸一の所にも電報が届き、内容は同じだった。

文子はすぐに、会社で働いていた紀子に電話で知らせる。

その後、幸一の家にやって来たしげは、東京駅で妙なことを言うと思ったら…などと暗い表情をし、このところ忙しいのだと迷惑がりながらも、とりあえず今夜の急行で帰ることを兄と相談すると、喪服も持っていくことにする。

尾道の自宅では、氷嚢を額に乗せたとみが昏睡状態でいるのを周吉が見守る中、京子が東京から来る兄弟たちを迎えに行く。

東京からみんな来てくれるそうだ。もうすぐじゃ、直るよ、直る、直るさ…と、周吉は声をかけ続ける。

夜、京子が氷嚢用の氷を割っている。

危篤状態のとみの周囲には、医者(長尾敏之助)と共に、東京から駆けつけて来た幸一、しげ、紀子が座っていた。

敬三だけは電報の返事がないと京子は言う。

医者から容態を聞き、自らも母親の脈などを診ていた幸一は、医者が帰ったあと、別室にしげと周吉を呼ぶと、朝まで持てば良いと診断の結果を打ち明ける。

その途端、しげはわっと泣き出すし、周吉も、そうか、いけんか…、そうか、お仕舞いかの〜、敬三も間に合わんか…とつぶやく。

翌朝、幸一の言う通り、とみは息を引き取っていた。

しげは、人間なって、あっけないもんね。東京に出て来たのも、虫が知らせたのよと言いながら、喪服がないと言う紀子と京子に、どこかで借りて来なさいと指示を出す。

その時、ようやく敬三が帰って来て、間に合わなかったことを知ると、松坂に出張中だったので、電報が来た時おらんかったと、兄弟たちに説明する。

臨終は、今朝の3時15分だったと聞いた敬三は、母親の死に顔を見ながら、すみませなんだな…と詫びる。

幸一が、お父さんは?と気づき、紀子が外で海を見ていた周吉を呼びに出る。

周吉は、きれいな夜明けじゃった。今日も暑うなるぞと言いながら家に戻る。

葬式の読経の中、敬三が急に立ち上がって席を外したので、心配した紀子が追って来ると、廊下の端に腰を下ろした敬三は、読経を聞いているとたまらない。お母さんが小さくなっていくようで…、孝行せなんだからなぁと悔やむ。

その後、料亭で食事をすることにした兄弟たちは、昔、市の教育課長をやっていた周吉とあれこれ昔ばかしに花を咲かす。

周吉がトイレに立つと、どっちかと言うと、お父さんが先の方が良かった。京子がお嫁に行ったら、お父さん厄介よなどと言い出し、京子には、とみの着物を形見にくれなどとあれこれ注文し出す。

戻って来た周吉は、集まってくれた子供たちに礼を言い、幸一にも診てもらえたし、あれも喜んどるじゃろうと続けながらも、熱海でとみがふらついた話をする。

それを聞いたしげは、どうして黙っていたのだ。兄さんにでも言えば良かったのにと責めるが、幸一の方は、お母さん、太っておられたし、それとは関係ないだろうと弁護する。

幸一としげは、その日の急行で帰ることになるが、酒を飲む周吉を見ながら、しげは、お父さん、あんまりお酒飲んじゃだめよと釘を刺す。

周吉は、そうかい、みんな帰るかいと答える。

紀子だけは、その後も数日残っていたが、いよいよ帰ることになり、学校へ出かける京子の朝の支度を手伝っていた。

京子は、紀子に礼を言い、兄さん、姉さんたち、すぐに帰ってしまうし、形見をくれなんて、自分勝手なのよと胸にたまっていたものを吐き出す。

しかし、紀子は、私もあなたぐらいのときはそう思っていたけど、皆自分の生活があり、それが一番になるのよと諭す。

それを聞いていた京子は、そうだったら、親子なんてつまらないとふくれるが、皆、なりたくないけどそうなるのよと紀子は教える。

嫌な世の中!と京子が吐き捨てると、そう…、嫌なことばかり…と同調した紀子は、きっと、夏休みにはいらっしゃいねと誘い、京子を送り出すのだった。

庭いじりから戻って来た周吉は、今日の昼の汽車で帰ると言う紀子に、残ってくれたことに感謝すると、お母さんも喜んどった。東京で色々親切にしてもらって。母さんも、あの晩が一番うれしかったと言っとったと教えると、あんたのこれからのこと、いつでも良い所へお嫁に行っとくれ。いつまでも、あんたにそのままでおられると、心苦しゅうなる。困るんじゃと吐露する。

それを聞いていた紀子は、お母さん、買いかぶっていらしたんですわ。私、そんな良い人じゃありません。私ずるいんです。正二さんのことばかり考えている訳でもありません。この頃は、忘れている時も多いんですと答え、一日一日、何事もなく過ぎて行くのが寂しいんです。何事かを待っているんです。そう言う気持ちをお母様には申し上げられなかった…と沈む紀子に、良いんだよ。正直でと言う周吉は、とみが若い頃持っていたと言う懐中時計を、あんたに使うてもらえば、お母さんも喜ぶと言いながら、形見として紀子に渡す。

気兼ねのう、先々、幸せになってくれるよう祈っとるよと付け加えた周吉の言葉に泣き出す紀子。

周吉は、妙なもんじゃ。自分が育てた子より、いわば他人のあんたの方がわしらに良うしてくれた。ありがとう…と、再度感謝の言葉をかける。

小学校

授業中だった京子は、腕時計で時間を確認すると、窓際から、通り過ぎて行く列車を見送る。

その列車の中では、紀子が懐中時計を出して眺めていた。

一人になった周吉に、隣の主婦が、このたびは急なことで…と声をかけて来る。

周吉は、気が利かん奴でしたが、もっと優しゅうしてやれば良かった。一人になると、日が長いですわと答える。

お寂しいこって…と主婦が去り、海には船が通り過ぎて行く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

老夫婦と成長した子供達の数日間の再会と別れのドラマである。

子供たちは皆、互いの生活で精一杯であり、昔のように親と打ち解けない部分が出来ている。

しかし、その心根の奥底では強い絆で繋がっているのだ…という作者の意図が、じんわり伝わってくる。

一見、冷たい態度に見える兄弟たちの態度に憤る京子に、血の繋がっていない立場である紀子が、優しく、その辺りの機微を教えさとすラストが印象的である。

物語後半に登場し、いかにも若くてぶっきらぼうに見える敬三の、葬式での態度が心を打つ。
得な役柄というべきだろう。

どこか、しみじみと懐かしく、自分の両親の近況を思わず案じてしまう…そんな気持ちにさせてくれる優しい心根の名作である。