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螢川

1987年、キネマ東京&日映、須川栄三監督作品。

宮本輝の芥川賞受賞作が原作。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和37年の富山、雪深い冬から物語は始まる。

中学三年生の水島竜夫(坂詰貴之)は、時々、幼少期の頃を思い出す。

母親が芸者をやっており、酔客たちとはしゃいでいる様子。
サーカスに連れて行かれ、そこで、何故か、母親が泣いていた事。
しかし、その記憶はどこか曖昧である。
当の母親、千代(十朱幸代)は覚えてないという。

今、60代半ばになる彼の父親、重竜(三國連太郎)はすっかり零落している。

そんな、竜夫は、幼馴染みで同級生でもある辻沢映子(沢田玉恵)が好きである。
今日も、映子にちょっかいを出そうとしている転校生の吉岡とけんかをし、ナイフで傷つけたりしてしまった。
近くで、その様子を見ていた映子。

級友の関根も、映子の事が好きらしく、何故か、彼女の写真を持っており、自慢げにそれを竜夫に見せびらかすのだった。
最近、竜夫は、何故か、映子とは距離を置くようになっている。

季節が移り、ある雨の日、父、重竜と部屋で二人きりになった竜夫は、自分が千代の実子ではなく、重竜の分かれた先妻、春江(奈良岡朋子)の生んだ子供だったと告げられる。
その直後、重竜は脳いっ血で倒れてしまう。

さらに、無二の友人であった関根が、あれほど大切にしていた映子の写真を友情の証として、竜夫に譲ってくれた後、事故で水死してしまう。映子の写真は、実は関根が、こっそりくすねたものであったらしい。

やがて、父、重竜も帰らぬ人となる。

その葬儀の後、大阪に住む千代の兄(河原崎長一郎)が訪れ、大阪に移ってこないかと妹にすすめる。
さらに、先妻の春江も訪れて来て、竜夫との短い逢瀬を果たす。
竜夫の記憶にあった、サーカスで泣いていた母親とは、実は春江の事であったのだ。

自分の将来がどうなるか不安な竜夫は、父の友人であった銀蔵じいさん(殿山泰二)に、約束通り、螢を見に連れて行ってもらう事にする。

かねがね、父、重竜が、4月に大雪が降った年には、螢の大軍が発生し、それを見た二人は結ばれる…という話をしていたからであった。

母、千代も同行し、かねてより、自分も行きたいと願っていた映子も途中で合流する。

数時間も歩いて、山奥にたどり着いた彼ら一行が見たものは…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

思春期の少年の目から見た、男と女の複雑な愛情関係、運というものに弄ばれる人の一生、様々な人間関係、そして、自らの中に宿りはじめる性への興味と戸惑い。

四季のうつろいを見せる美しい北陸の風景と共に、キャメラは竜夫の成長をていねいに追って行く。

ラストの荘厳華麗な特撮シーンが、それまでの、どこかほろ苦い人間ドラマを浄化するかのように神々しく印象的。

川北特技監督の手によるこの特撮が発展して、「ゴジラVSビオランテ」(1989)に使用される事となる。

三國連太郎、十朱幸代、殿山泰二、奈良岡朋子、川谷拓三、大滝秀治ら、脇を固める名優たちの渋い演技と、それに拮抗する、坂詰貴之、沢田玉恵ら若者の瑞々しさの対比が物語に奥行きを与えている。

しっとりとした味わいを残す、日本映画の名品の一本。