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情婦

アガサ・クリスティの舞台劇「検察側の証人」の映画化。

実は、この映画、原作のタイトルからも分かると通り、検察側が用意した意外な証人が登場する所で、ミステリー好きな人なら、「ハハ〜ン…」とメイントリックに気付くはずだ。

この作品が、法廷ミステリーとしては古典であり初歩的なものだから…というだけではなく、物語の前半部分から、きちんと必要な伏線がはってあり、観客が推理する上で、極めてフェアな作り方をしているからである。

ミステリー初心者には、そのメイントリックだけでも、十二分に驚愕に値するほどのものなのだが、ミステリーずれした観客にも、映画独特のひねりが加えられており、さらなる驚きが用意してあるのだからたまらない。

物語は、心臓発作を起こし、入院先の病院から帰宅を許された、肥満気味の弁護士ウィルブリッド卿(チャールズ・ロートン)が、口うるさい看護婦ミス・プリムソル(エルザ・ランチェスター)と共に事務所に戻ってくる所から始まる。

ウィルブリッド卿の身体の事を考え、刑事事件のような負担のかかる案件はさせまいと配慮していた事務所側の思惑とは裏腹に、彼の好奇心を刺激して止まない難事件「エミリー・フレンチ事件」の弁護依頼が友人によってもたらされる。

職を失って貧しい元軍人レナード・スティーブン・ヴォ−ル(タイロン・パワー)は、街の帽子屋で知り合った富豪の未亡人エミリー・フレンチを殺害した容疑者になった。
8万ドルの遺産が彼に残されていたからである。

彼の事件当夜のアリバイを証言する人間は唯一人。
ヴォ−ルのドイツ人妻クリスティーネ(マリ−ネ・ディートリッヒ)だけであった。

身内である妻の証言では信ぴょう性が薄い…。
さらにドイツ人では…。

こう書いただけでも、勘の良い人にはピンと来るものがあるに違いない。

だから、この作品を、ミステリーとして、過剰な期待感や、今風のマニアックな視点で、いじわるく観てしまっては間違った印象を受けかねない。

むしろ、ゆとりを持った古き良き時代の「大人の娯楽映画」として楽しむべきだろう。

とにかく、冒頭からエンディングに至るまで、周到に用意されたワイルダ−特有のユーモア表現の連発が愉快!

特に、職務遵守の看護婦と頑固一徹のウィルブリッド卿の丁々発止のやり取りは抱腹絶倒の軽妙さ。

一見本筋とは無関係そうに見えるこの辺のユーモア表現、一つは、陰鬱なミステリーの雰囲気を和らげる効果があるのと同時に、単調になりやすい事件の経過説明や法廷論争を実に分かりやすく観客に飲み込ませて行く。

さらに、作者が観客に仕掛けたトリックから巧妙に目をそらさせる演出にもなっているのだから、その手腕には頭が下がる。

三谷幸喜氏のミステリードラマ「古畑任三郎」、骨格の元祖は「刑事コロンボ」だと思われるが、その独特のユーモア表現のオリジンは本作であろう。

初心者からマニアにまでお薦めできるミステリー映画の名作!