TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

静かなる決闘

1949年、大映東京、黒澤明&谷口千吉脚本、黒澤明監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

1944年の南方戦線、土砂降りの野戦病院の中で、果てしのない手術の連続に疲れ切った軍医、藤崎恭二(三船敏郎)が座り込んでいる。

次の患者を手術中、藤崎ははめていたゴム手袋を面倒になり、ついはずしてしまう。
さらに、メスを手に取ろうとして、指先を傷つけたまま、手術を続行する。
しかし、その患者、中田進(植村謙二郎)は、梅毒に侵されてしていた事が判明、気になった藤崎自身も血液検査をしてみた所、自分も感染している事に気付く。
薬も満足にない戦地を転々としている内に、藤崎は病気をこじらせていく。

戦後の1946年、藤崎は、父親(志村喬)の経営する、外科、産婦人科病院で、人に隠れて、梅毒の薬サルバル酸を自分に打ちながら、町医者の仕事に戻っていたが、毎日のように病院を訪れては手伝いをしていた、戦前からの婚約者、美佐緒(三條美紀)には、自分の病気の事を言い出せず、ズルズルと6年間も結婚しない状態が続いていた。

当時、完治には長い時間がかかった梅毒の事を告白すれば、気丈な美佐緒は、自分の青春を犠牲にしても、自分に付いて来る事を知っている藤崎には、どうしても正直に打ち明けられなかったのである。
愛しあいながらも、互いに苦悩する美佐緒と藤崎。

しかし、その秘密を、深夜、藤崎が父親に告白する所を立ち聞きして知ってしまった人間がいた。

男に子供を孕まされ、自殺しようとした所を藤崎に助けられ、今や、その病院で、見習い看護婦をしていた元ダンサーの峰岸るい(千石規子)であった。

彼女は、自分の人生にも男性にも絶望し、妊娠状態のまま、人道主義的な発言を繰り返す藤崎の事までも逆恨みしていたのであったが、その立ち聞きの結果、自分の誤解を知り愕然とする。

一方、藤崎は、ふとした偶然から、自分に病気を感染させた中田に再会する。
中田は、相変わらず、自堕落な生活を送っていたのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

基本的には、梅毒の恐ろしさを大衆に知らしめる教育的側面を持った、誠実な医者を主人公にしたヒューマニズム映画といえるが、一方で、荒んだ心を持った女性、峰岸るいの人間としての成長物語にもなっている。
ラストの手術シーンで、キャメラは、しっかり、彼女の顔をアップしていく事からも、それは明らかであろう。

全体的には、心理ドラマ中心の、地味な演劇を観ているような感じなのだが、野戦病院で、藤崎が、中田の病気を知るシーンでは、近くを通り過ぎる軍用トラックの轟音がかぶさったり、峰岸るいが、立ち聞きをして、藤崎の秘密を知ってしまったシーンでは、盲腸の手術を受けた入院中の少年に、無事ガスが出たと、ハーモニカで騒ぐ、入院患者たちの浮かれた音楽をかぶせたり、その効果音や影の使い方にはさすがに黒澤らしさが感じられる。

必ずしも、単純なハッピーエンドとはいえないまとめ方になっているのだが、後味は悪くない。
若き医者を演ずる三船の姿も凛々しく、手塚漫画の「ブラックジャック」のようである。

黒澤明、谷口千吉監督などに興味のある人には、必見の映画だろう。