TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

酔いどれ天使

1948年、東宝、黒澤明監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

いつも、ガスが吹き出しているような淀んだ池を囲む小さな街の一角にある病院に、夜、手のひらに怪我をした若い男が訪れる。

男の傷から銃弾を取り出した医者、眞田(志村喬)は、軽く咳き込む相手がやくざであり、しかも結核を患っているのではないかと問いただすが、若い男はそのまま出ていってしまう。

粋がってはいるが、どこか完全には悪に染まりきっていないやくざの松永(三船敏郎)の正体を見抜いている眞田は、折に触れ、彼に接近しては説教するのであった。

しかし、素直になれない松永は、絶えず眞田とぶつかっては、病状を悪化させていく。

それでも、ある夜、泥酔状態で病院に転がり込んだ松永は、自分のレントゲン写真を持っていた。
病状が悪い事をこんこんと諭された松永は、徐々に眞田のいう事を聞くようになっていたのだったが…。

折悪しく出所して来た、松永の兄貴分岡田は、徐々に松永の情婦(小暮実千代)やショバを自分のものにしていく。
松永はそんな岡田への対抗心から、さらに無理を重ね、やがては喀血してしまい、病因に運び込まれる。

かつての情婦が、病院に身を潜めるように働いている事を嗅ぎ付けた岡田は、眞田の元に訪れるが、病身の松永が出て来て一旦はその場をおさめるのだった。

一人話を付けようと、眞田の眼を盗んで親分の家に乗り込んだ松永だったが、その親分の冷たい本音を立ち聞きしてしまう…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦後の荒んだ社会状況と人心。
その中から立ち直れず自滅していく人間の弱い姿を、三船が見事に演じきっている。
無骨ながらも心優しい医者を演じる志村喬も見事。

同じ結核に侵されながらも、真面目に病気と戦い、完治させてしまう純真な女学生(久我美子)や、市場に流れる「カッコウの歌」の明るいメロディと対比させながら、内心では死を恐れながらも、素直になりきれないヤクザの暗い心をあぶり出していく演出は見事というしかない。

劇中、夢の中で、波打ち際に置かれた棺桶をたたき壊した松永が、その中から現れたもう一人の自分自身に追い掛けられるシーン、ひょっとすると、「スター・ウォ−ズ/帝国の逆襲」での、ルークがダコバ星での訓練中、突如出現したダ−ス・ベイダ−を斬ると、そのヘルメットの中から自分自身の顔が現れる…という幻覚シーンに引用されたのでは?…と気になった。

地味な内容の作品ながら、見ごたえ感は十分。
若き三船の、憂いを含んだ美貌と鋼のような肉体が素晴らしい。

この頃から、すでに禿げている、若き殿山泰司や、元気一杯ブギを歌っている笠置シヅ子など、珍しい顔にもお目にかかれる。

ヒューマニズム溢れる、黒澤初期の名品の一本。