TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

東京オリンピック

1965年、東京オリンピック映画協会作品。和田夏十+白坂依志夫+谷川俊太郎脚本、
市川崑脚本+総監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼。

超望遠レンズで捕らえられた巨大な太陽の姿が、古びたビルを破壊する鉄球とオーバーラップして、現在(1964年当時の)の東京の姿に移行する。

ギリシャで点火された聖火が、「始めて」アジアで開かれるオリンピックのために、「始めて」通過する国々の様子を映し出す。

やがて聖火は、戦争で一度中止され、戦後、一度参加を拒否された極東の小国、日本へ…。

「ひめゆりの塔」が建つ沖縄から、原爆ドームのある広島を通過し、画面一杯に広がる富士山の裾野を、小さな聖火ランナーが走り抜けていくシーンは圧巻である。

冒頭からも明らかなように、この作品は、単なる記録映画ではない。
日本に訪れた世界各国の人物たちの顔のアップ、それを初めて体験する当時の日本人たちのこちらもアップ…。

競技者たちを映し出すキャメラも容赦はない。
投擲の前に、不可思議な行動をする砲丸投げの選手や、陸上競技の選手。
雨の中の競歩の優勝者が、苛立たし気にゴールのテープを引きちぎる様。
勝者の姿と同じように、敗者の姿もしっかり捕らえられている。
競技中、倒れ込む選手。長時間に渡る勝負の末、破れ去る選手。
小さな国から単身来日し、孤独な練習と競技を終えて、すぐに帰っていく若者の姿。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

あくまでも、徹底的に人間の外見に接近する事で、人間とは何なのだろう?オリンピックで競争する事って何なのだろう?…という問いかけをしているかのような作品である。

当時、日本が優れていた競技は限られており、レスリング、重量挙げ、男子体操などで、ようやく日の丸が掲揚される。

女子バレー、東洋の魔女たちが「ソ連のオーバーネット」で勝利する、あまりにも有名なシーン。
無差別級柔道で、オランダのヘ−シングに破れ去る神永の姿。
哲人のような、ヴィキラ・アベベの勇姿と同時に、苦し気に身体を揺らしながら走り続ける、悲劇のマラソンランナー円谷幸吉の姿…。

観終わった後、圧倒的な感動が沸き起こって来るのは、本作が「映画」として素晴らしいからに他ならない。

おそらく、当時、日本最高レベルのキャメラマンたちが動員されたのであろう。とにかく、どのシーンを取っても、キャメラが見事である。重厚である。風格さえある。

市川崑監督の代表作の一本であるだけではなく、日本が世界に誇れる映画の一本だと思える。

余談だが、初出場のカメルーンが、たった2人だけの入場式で、観客を感動させている所など、今も昔も、カメルーンは日本で人気者だったのだな〜…と、妙な感心をしたり、今人気のサッカーが、本作ではわずか数十秒に編集されていたり、東西のドイツが、当時はオリンピックのためだけに合同チームで出場しており、国旗が掲揚される際には、交響曲第九「喜びの歌」が流れていた…などという事実が、今観ると感慨深い。

単なる「昔の記録映画」と考えず、日本映画の名作の一本として、必見の作品だと思う。