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プーサン

1953年、東宝、市川崑監督作品。

横山泰三の漫画「プーサン」と「ミスカンコ」をベースにし、かなり自由に脚色した作品らしい。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

早朝なのか、人通りも少ない銀座の大通り、大きなトラックが凄いスピードで走り抜ける。
一人の男が、その風にあおられたのか、路上に倒れ込む。どうやら、腕に怪我をしたらしい。

その男の名は野呂米吉(伊藤雄之助)、安月給でこき使われている受験予備校の数学の講師。
何かにつけて、要領の悪い男である。
下宿先の一人娘で、銀行に勤める金森カンコ(越路吹雪)にちょっと気がある。
カンコは、同僚と仕事で張り合って、毎晩遅くまで残業している負けん気の強い現代女性。

二人は、初デートで日劇へストリップを観に行く。
ストリップを観たがったのは、何とカンコの方である。
ドライな性格のカンコには、すでに、同じ銀行員の恋人宇賀神(黛敏郎)がいたのである。
中年男の野呂の事など、何とも思っていない。

そんな事とは知らない野呂、カンコとの結婚を秘かに夢見ているのであった。

ある日、学生に誘われて、何気なく参加したデモが警官との間で争乱になってしまい、野呂の顔は新聞にデカデカと載ってしまう。
その責任を取らされ、講師の職を失った野呂、下宿での気まずい失業生活が始まる…。
もはや、カンコとの結婚話などすっ飛んでしまっている。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

当時の世相を随所に折り込んだ、風刺ドラマとでもいったような内容になっている。

共産党員が幅を効かせ、学生たちの考え方もその影響を強く受けている。
肺病の東大生(平田昭彦)は、医者に偽の診断書を書いてもらい、アルバイトを得ようとする。
一方、執筆活動で財をなした小ずるい政治家は、結局、汚職がばれて捕まった獄中でも、またその体験を本を書き儲けようとしたり、安月給で働かされている若い医者(木村功)は、その職を辞めて、保安隊(自衛隊の前身)に入隊したりする。

職を得るため先輩を訪ねようとした野呂、電車内で、偶然、その先輩(山形勲)に出会うが、彼もまた失業中である事を知り、愕然とする。

一方、カンコの方はといえば、恋人が大学出ではないという理由で、結婚を母親に反対された事に腹を立て、家出した旅館先で睡眠薬自殺を計ろうとするも失敗、大勢の警官たちの好奇の眼にさらされながら、スリップ一枚で布団に横たわっている。

結局、野呂は、背に腹は変えられないと、軍需産業で儲けているミシンメーカーに職を得る事になる。
彼が得た仕事とは、弾丸の詰まった箱を、ひたすら梱包する役目であった…。

野呂のエピソードで苦い世相を描き、カンコのエピソードで、逞しく生き抜く人間の根源的な生命力を描いているかのように思える。
「戦後、男は弱くなり、女性は強くなった」…という事かも知れない。

トニ−谷、横山泰三、隆一兄弟など、意外なゲスト出演も楽しめる、市川崑監督初期の異色作。