TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

南の島に雪が降る

1961年、東宝、久松静男監督作品。

主演も勤める俳優、加東大介の実話原作を映画化したもの。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

太平洋戦争末期、オランダ領西ニューギニア、マノクワリという地区が舞台。

毎日行なわれる連合国側の定期的な空襲を避けながら、兵力も食糧も枯渇し、今や、道路工事などをして、大部隊の投入を偽装するしかない日本軍。病人、けが人続出で、兵隊たちの体力も限界に差し掛かっていた。


食糧として、さつまいもの栽培を始めるが、それさえも、しょっちゅう、誰かに盗まれるような始末。

そんな中、衰弱した兵隊たちの気持ちを癒すために演芸部隊が結成される事になる。


中心となるのは、元、役者だった加東軍曹(加東大介)、前田一等兵(西村晃)ら。

周辺の各部隊から、腕に覚えのなる者たちが、演芸部隊編入審査に押し掛ける。


その中から、博多出身の元僧侶、篠崎曹長(有島一郎)や大沼一等兵(桂小金治)をはじめ、美術、小道具担当やかつら担当の兵隊たちが選抜されるのだが、当初、田舎芝居丸出しで使い物にならないと、一度は不合格になった東北出身の鳶山一等兵(伴淳三郎)も、たっての願いが通じ、補欠合格する事になる。

最初は「リアリズム」という言葉の意味さえ分からず、周囲から冷笑されていた鳶山一等兵だったが、みんなが寝静まる中、一人黙々と練習に励む熱心さ。


楽器や衣装なども、徐々に揃い始め、最初の芝居を開いてみると、兵隊たちの喜び様は尋常ではなく、その成功に気を良くした上官たちは、周辺の兵隊たちにも見せるため、毎日芝居興行を決行する事になる。


やがては、本格的な芝居小屋を作る事になり、「マノクワリ歌舞伎座」なる立派な建物が完成する事に…。

ピアノが演芸部隊に到着した日、一人の負傷兵がふらりと演芸部隊を訪れる。


あっけにとられるみんなの注視の中、その負傷兵は見事なピアノの腕前を披露するのだった。


その男は坂田伍長(フランキー堺)といい、山向こうの地区で全滅したとされている部隊の生き残りだった。


軍で一旦死亡とされると、二度と生者としての扱いをしてもらえなくなる。
いわば「生きた英霊」状態。


その山向こうの部隊のわずかな生き残り連中は、今まさに瀕死の状態にあった。

元、新人ピアニストであったというその坂田伍長も、山向こうに戻った後死亡してしまったと、後日、代わりに演芸部隊を訪れた小林伍長(小林桂樹)が伝える。

ある日、上官から、「兵隊たちに内地を思い出させるため、芝居で雪を降らせて欲しい」という注文が演芸部隊に出る。

その噂を聞き付けた小林伍長、全滅寸前の生きた英霊たちを引き連れ、山を越えて、マノクワリ歌舞伎座を訪れる。

雪に見立てた紙吹雪が、静かに降りしきる舞台を目の前にして、山を越えて来た瀕死の兵隊が一人息を引き取るのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ミニチュア特撮や派手な爆破を使った空襲シーンもあるのだが、物語の中心は、素人たちが集まって芝居作りにまい進する姿を描いたもので、芸達者な役者たち、加東大介や伴淳、有島一郎、西村晃らが見せる「劇中劇」を楽しめる趣向になっている。


また、芝居の女形にすっかり参ってしまうとぼけた兵隊役を演ずる三木のり平や、自らの部隊を引き連れ、帰還する事のない死地へ出かける前、飛び入り参加で舞台に登場する、森久男大尉こと、森繁が兵隊たちに聞かせる「五木の子守唄」など、思わず唸ってしまう芸も見どころ。

元エノケン一座にいた役者と偽り、演芸部隊にやって来る青田上等兵役で、渥美清が登場して来るのにも注目!
彼の東宝作品参加は珍しい。

そうした「芸事」の楽しさがあればあるほど、彼らが置かれていた当時の境遇の悲惨さが、観る者の心に、深く突き刺さって来る仕掛けになっている。

号泣必至!