1993年、大映、黒澤明監督作品。
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テレビスペシャルのような雰囲気のテーマと映像である。
内田ひゃっけんが、学校の教員職を辞めて、随筆家として生活を始める戦前のシーンから、教え子たちが、ひゃっけんの長寿をからかって(祝って)主催する「摩阿陀会」が始まる戦時中。
さらに、戦後の第17回摩阿陀会の夜までが淡々とした筆致で描かれていく。
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黒澤特有のダイナミックなアクションなどは皆無な作品であったため、公開時は悪評の方が目立ったが、今、これを観てみると、それなりに味わい深い作品である事が分かる。
飄々として、ユーモラスな性格のひゃっけんのキャラクター。
そのキャラクターを「金無垢」と称し、愛してやまなかった教え子たち。
静かに、その、どこか浮き世離れしたひゃっけんを支える、奥さん(香川京子)。
正直な所、前半のひゃっけんのユーモア表現、先生のために一軒家までプレゼントしてしまう教え子たちの心情、さらに、わが子のように可愛がっていた愛猫、ノラが失踪してからのエピソードなども、今の感覚で観ていると、どこかピンと来ない部分もあるのだが、おそらく、晩年の黒澤には、こうしたひゃっけんの心情に深く共感する部分があったのだろうな〜…と、推測するだけである。
「喪失感」…とでもいうのだろうか。
老いていって、だんだん、気弱になっていく。
どんなに周りが自分に対し気を使ってくれても、隠しようのない喪失感。寂寥感。
それを、正直に周囲に対し吐露できる…、そんなキャラクターとして、ひゃっけんが選ばれたような気がする。