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宇宙戦艦ヤマト

1970年代中頃は、若者の意識が、大きく変化し始めた時代であった。
テレビっ子世代の登場である。
一時期吹き荒れた学生運動や、暗い四畳半的青春ドラマは過去のものなり、彼らが子供時代に親しんでいたTV特撮ドラマやアニメなどを懐古する「オタク」的な風潮が、一部の学生などの間に定着し始める。(まだ「オタク」という言葉自体は出来ていない)
そうした1977年の初夏、海の向こうのアメリカで1本の映画が、空前のヒットをしている…という噂が、日本にも届く事になる。
非娯楽的なニューウェーブ映画や、暗い犯罪映画全盛に嫌気がさしていたアメリカでも、若者たちの間に、昔のテレビや映画の徹底した娯楽作品を懐古する「オタク」的な土壌が出来つつあった中、見事にその「ツボ」を突いた空前の娯楽活劇大作が登場したからである。
その作品の名は「スター・ウォ−ズ」であった。
しかし、この作品の日本公開は、何と1年後…という事になり、期待していたファンたちは拍子抜けするのだが、そんな中、1本の国産アニメが夏公開作品として準備されていた。
西暦2199年、度重なるガミラス星からの攻撃のため崩壊の危機に立たされていた地球は、放射能除去装置コスモクリーナーがあるというイスカンダル星へ向かうため、太平洋戦争で海底に沈んだ、戦艦ヤマトを宇宙船として改造し、大空へ旅立つのであった…。
1974年にテレビ放映された本作品は、視聴率的にはふるわなかったものの、一部の熱狂的なマニア層を生み出すほどの野心的なSFアニメ作品であった。
そして、劇場版「宇宙戦艦ヤマト」は、そのテレビアニメを再編集しただけのダイジェスト版である。
当然、当時のマスコミはおろか、一般の映画ファンたちも、誰一人として、この「安直な子供騙し作品」に注目する者はいなかった…。
そう、公開されるまでは…。
ところが、蓋をあける前から、劇場の周囲にはマニアたちの長蛇の列が並び、ただならぬ熱気!
公開するや否や映画は空前の大ヒットを記録する事になる。
それは、新聞の社会面に、社会的事件として報道されるほどの異常事態であった。
つまり、奇しくも、日米同時期に「SFX」と「アニメ」の超ヒット作品が登場した訳で、この後、こうした流れが、両国映画産業の中核になっていった事は承知の事実である。
しかし、映画作品として、本作を冷静に見直せば、「技術的には稚拙なテレビアニメ」を繋ぎ直しただけのものに過ぎず、大きなスクリーンで拡大されたテレビ用セル画の荒さに、興醒めした事も確かである。
従って、本作品は、「映画作品」として評価するというよりも、内容的には元々のテレビシリーズ自体の先進性、独創性を誉めるべきものであり、映画としては、日本映画史に残る空前の興行的大成功のみが評価できる…という、奇妙な位置にあるものと言えよう。
この作品がなければ、いまだに続く「ジャパニメーション」ブームや、宮崎駿の登場さえなかったかも知れない…と思わせるくらい重要な作品である事は間違いないのだが…。