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サンダカン八番娼館 望郷

1974年、東宝+俳優座映画放送、山崎朋子原作、広沢栄脚本、熊井啓脚本+監督作品。

ライター役の栗原小巻が「からゆきさん」の実体を取材するため、あばらやのように粗末な家屋に住む老婆(田中絹代)に近づく。
老婆は自分の生涯を語り始める…。
貧しい家に生まれた少女(高橋洋子)は、東南アジアに単身、身を売られて行く。
海を渡る彼女を崖上から見送る兄(浜田光夫)が、悲しみのあまり、自らの太股に鎌の刃を突き立てるシーンが、後半の悲劇を強調する。
少女は訳も分からずに、異国の地で多くの男たちに抱かれる娼婦として生きて行く事になるのだが、悲劇はこれだけではなく、一旦、帰国した主人公が兄を訪ねると、そこで待っていた現実の冷たさがさらに、少女を打ちのめすのだった。
国にも肉身たちにも見捨てられ、一生を異国で終え、その墓を祖国とは逆の方向に向けて立てる事で、最後の意地を貫く、多くの女性たちの悲劇性が重く観る者にのしかかる。
少女を演じた高橋洋子、娼婦たちのリーダーを演じる水の江滝子、そして、老婆を見事に演じ切った田中絹代の名演技が光る感動の大作。
貧しさと言うものが実感として分かり難くなっている現在、かつて、日本がどういう状況であったかが背筋が寒くなるほど伝わってくるこの作品を、機会が合ったら一度観てみるのも悪くないと思う。
南方が主要な舞台になっているせいか、画面的には陰惨な感じは薄く、意外と明るい画面作りになっている所が、逆に話の残酷性を際立たせているようにも感じられる。
映画ファン必見の名作の一本だろう。