1942年、大映京都、木村恵吾原作+脚本+監督作品。
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白夜の森に大きな満月がかかっている。
そこに突如若い娘に化けて出現した狸のお黒(高山広子)は、今は亡き父、泥右衛門の墓に、生前好物だった酒をお供えしていた。
父泥右衛門は、有名なカチカチ山の狸で、ウサギに背負っていた薪に付けられた火で火傷を負い、その傷が元で亡くなったのだった。
一人遺された娘のお黒は、怒りっぽかった父親を懐かしんで泣いていた。
その時、突如、墓の下から亡くなった父親の声が聞こえ、泣くなと遺言したはずだ。お前が泣くと、夜が暗くなり、墓の下まで暗くなると言う。
その頃、泥右衛門の後添え、お黒の義母に当るおたぬ(豆千代)は、自宅で酒を飲もうとしていたが、狸の顔のままだと飲み難いので、人間の姿に変身し、唄いながら飲み始める。
その時、お黒が戻って来たので、先に一人風呂に入っていたお黒の姉のきぬた(草笛美子)がぬるいと奥から文句を言う。
おたぬが風呂加減も見なかったのかと叱ると、お黒が里までお使いに行っていた。父の命日だったのでと言い訳をすると、酒を買って来たんだね、飲めもしない父の墓にあげる酒はあっても、この母親に飲ます酒はないんだねとおたぬは、ねちねちと意地悪を言い出す。
お黒が返事を出来ないでいると、ますますつけあがったおたぬは、「海に親より育ての親」と言う言葉を知らないのかい?と毎度説教の度に言う言葉を出し、お黒の実母が亡くなり、まだお前がドングリをしゃぶっていた赤ん坊時代から育ててやって一人前にしてやったのは誰だい?と、ねちねち嫌みを言い、ポンと腹鼓を鳴らす。
その頃、風呂から上がって縁側で涼んでいたきぬたは、ミツバチがまとわりついて来るので、そんなに私がきれいなのかい?私の赤い唇を花田とでも勘違いしているんだろうね?と一人、うぬぼれまくっていた。
そんなきぬたに、縁談の話があると近づいて来たおたぬは、ドングリ林の栗助さんって知っているだろう?と話しかける。
その時、家の前では、その栗助が得意の歌声を披露していた。
しかし、きぬたは、あんな平凡な男…と相手にしていない様子。
おたぬは、森一番の物持ちよと説得するが、きぬたは「女は氏なくして玉の輿」と言う通り、美貌さえ持っていれば、どんな縁談でも思いのまま、今日は森の音楽会だし、もうすぐ狸祭りで城に行くのだものと浮かれている。
出かけようとするきぬたは、妹のお黒が持って来た下駄が気に入らず、別のものを持っておいでと命じるが、その後は手鏡を覗き込んで一人うっとりしているだけ。
新しい下駄を用意したお黒は、姉様きれい。私なんか汚い蝶のようなもので、とても、お姉様には近づけないとお世辞を言うが、きぬたは、お前は私と姉妹のつもりかも知れないかが、私はお前の姉さんなんかじゃない。お前は私の下女なのよと酷い言葉を浴びせかける。
そんなきぬたが森へ出かけた後、お黒は、先ほど、墓前で父親から聞いた「泣いてはいけない」と言う言葉を思い出し、家の裏で必死に涙をこらえていた。
そんな白夜の森の沼のほとりに生えた大きな白木蓮の木の下に、河童のぶく助(益田喜頓)が出現する。
ぶく助は夜が嫌いだった。
沼の底が暗くなるし、蛙が鳴くから寝付けないからだった。
さらに、孤児で不細工な容貌を持つぶく助は、いつも森の連中からバカにされており、一人の友達もいなかったからだ。
そんなぶく助は、かねてより憧れているきぬたの事を想って唄い始める。
そんな森の中にやって来たメスの狸たちは、音楽会用に人間の娘に変身するが、一人だけ、毎回人間ばかりに化けるのは厭きたと言い出す。
そこへきぬたも出現し、あれこれ狸祭りの日に着ていく着物の事に着いて考え出す。
そして、唄いながら森の中に入って行くと、他の狸たちも男女の人間に化けて集まっていた。
一方、ぶく助は、一人沼のほとりで寂しく唄っていた。
森の音楽会は盛り上がっていた。
文福茶釜の子孫に当る茂林寺のお福(美ち奴)が歌い、得意の腹鼓を打つと、それを聞いたきぬたが、女が腹を打つなど下品だ、文福茶釜の如何物の子孫だなどと悪口を言う。
すると、お福も負けずに、カチカチ山の狸の娘が偉そうなことを言うなと言い返す。
きぬたは、得意の演説を始め、廻りの観衆たちから喝采を浴びる。
さらにきぬたは、観衆の中に狸の顔のままで参加しているオスの狸に向かい、化けると云うのは狸の特権であり恥ずかしがる事ではない。「化ける」と言う言葉が悪いだけではないかと指摘する。
その頃、家の前で掃き掃除をしていたお黒は、毎年、狸祭りの時期になると、白木蓮が散るんだわと感傷に浸っていた。
家の中で、紙を梳きながら唄っていたおたぬは、急に鳥の丸焼きで一杯やりたくなったので、里に行って、百姓家から鶏を一羽獲って来いとお黒に命じる。
しかし、お黒はそれだけは勘弁してと断る。人様に迷惑をかけたくないと云うのだ。
それを聞いたおたぬは、鳥を獲って来ないのだったら、二度と家に入れないよと叱りつける。
その頃、ぶく助は、日照り続きで、最近、沼の水が減って来た事を嘆いていたが、そこに唄いながら出現したきぬたから、私は男の容貌など気にしない。あの憎たらしい白木蓮を観てご覧と意味ありげにぶく助に言葉をかける。
その直後、家の前に姿を現したきぬたは、白木蓮め、ちょっと私よりきれいとうぬぼれているのだろうが、今頃、根っこにまさかりを打ち込まれるなんて思ってもいないだろう。
あの木がなくなれば、きぬたが森一番の器量良しになると、一人笑みを浮かべるのだった。
その言葉通り、きぬたの言葉にたぶらかされたぶく助は、まさかりを白木蓮の根っこに今にも打ち込もうとしていた。
その時、突如銃声が森に響き渡る。
鶏を盗んで来たお黒が、追っ手から猟銃を撃たれていたのだ。
慌てて逃げて来たお黒は、白木蓮の根っこにつまずき転んだ弾みに、鶏に逃げられてしまう。
お黒は、鶏に逃げられたので、もう家に帰れない。お父っつあんの墓の前で寝ますと、満月に祈ってその場で寝る事にする。
すると、白木蓮の周囲に何人もの妖精が現れ、その後から、世にも美しい白木蓮の精(雲井八重子)が出現して、墓の前で夜露に濡れて寝ているお黒の姿に気づく。
しかし、その直後、白木蓮の精は苦しみ始める。
ぶく助が、まさかりを白木蓮の根っこに振り落とし始めたのだ。
白木蓮の精は、苦しみながら姿を消して行く。
その時、まさかりの音に気づいて目を覚ましたのお黒は、音の方に近づいて行く。
すると、ぶく助がまさかりを根っこに振り下ろしているので、あわてて止めに入る。
しかし、ぶく助は、人に頼まれたら断れないたちなんだ。特に女に頼まれたら目が見えなくなると言いながら、止めようとしない。
お黒は、白木蓮が泣くと、森中の小さな花たちも泣くわよ。沼の水が涸れても良いのと言い聞かせる。
その言葉を聞いたぶく助は驚いてまさかりを持った手を止める。
この大きな白木蓮の木が枝を伸ばし、沼に涼しい日陰を作っているのだと根気よく説明すると、ようやく目が覚めたぶく助は、俺はあいつにだまされていたんだと悔やむ。
俺は森の嫌われ者、友達もいない…と、ぶく助が哀しむので、それを聞いていたお黒も、私だて同じだわ。誰もお黒なんかと遊んでくれる人はいないと呟く。
みんな着飾って城に出かけるのに、私には寝る所さえない。いくら狸でも、やっぱり夜露に濡れると寒いわ…と言いながら、お黒は再び墓の前で眠りにつく。
すると、先ほどの白木蓮の精が再び出現し、今宵そなたに命を救われたお礼に、美しい姫にしてやるので白へ行くように。その時はさぎり姫と名乗るべし。ただし、暁の鐘が七つ鳴り終える前に帰らなければ、貧しき元の姿に戻るので、努々忘るるなかれと告げて姿を消す。
その直後、目覚めたお黒は、自分がさぎり姫に変身している事を知り戸惑う。
それでも、遠くから聞こえて来る狸祭りの音楽が気にならないはずがなかった。
狸御殿では、大勢の狸腰元たちが人間の姿に化けて踊っていた。
そこに家老の豆狸五六左衛門(藤川準)と、若殿の狸吉郎(宮城千賀子)が出現し、祭りは絶好調になる。
狸吉郎は、出迎えた美しい姫たちと踊り始める。
その中には、着飾ったきぬたの姿もあった。
しかし、狸吉郎が一目惚れしたのは、花笠の陰に顔を隠そうとする初々しいさぎり姫だった。
狸吉郎からプレゼントを渡されたさぎり姫は、大きな階段の所に姿を現すと、夢のような体験に動揺していた。私、バカされているのではないかしら?と呟いた後、あら、私も狸なのに…と自嘲する。
そんなさぎり姫を捜そうと、家老や腰元たちは御殿中を探しまわっていた。
その声を聞いたさぎり姫は、本当は私はお黒なのよ…と悩んでおり、どこかに身を隠そうと階段を上りかけるが、不思議な事に階段に足を置くと、ピアノの鍵盤のように音を立てる。
躊躇っていたさぎり姫だったが、人が近づくのに気づき、思い切って、その階段を上って二階の部屋の中に入る。
すると、そこに狸吉郎が出現し、「姫!春雨じゃ」と傘をさし出す。
二階には、梅の花が咲き乱れ、うぐいすが鳴いていた。
そんな中でさぎり姫と踊った狸吉郎は、夢でなければ良いが…とつぶやき、それを聞いたさぎり姫は、もったいない。私のような卑しいものを…と恐縮する。
そんな謙虚なさぎり姫をすっかり気に入った狸吉郎は、願えばどんなものにでもなる、ぶどうの枝を渡そうとするが、その時、暁の鐘が聞こえて来る。
慌てたさぎり姫は、頂いたプレゼントを狸吉郎に返すと、ぶどうを一粒だけもらって階段を駆け下り、そのまま城を飛び出して森へ戻る。
すると、いつの間にか、元の貧しいお黒の姿に戻っていた。
さぎり姫に去られ呆然と立ち尽くしていた狸吉郎に近づいたきぬたは、落ちていた扇子を拾って手渡そうとするが、狸吉郎は気がないように、それは木の葉じゃと言い捨て立ち去ってしまう。
その言葉通り、きぬたが拾った扇子は、いつの間にか大きな木の葉に変わっていた。
自宅の前まで帰って来たお黒だったが、中で独り三味線を弾いている義母の事を考えると、自分は二度とここへは帰れないと感じ、城からもらって来た一粒のぶどうを家の中に投げ入れると、そのぶどうは何羽もの鶏になる。
翌朝目覚めた狸吉郎は、五六左衛門に、今夜の狸祭りは又盛大にな…と指示を出す。
その夜も、狸御殿では大勢の腰元たちが踊っていた。
その頃、お黒は、城に行かねばならないと焦りながらも、ぶく助が沼に桶で汲んで来た水を注ぐ作業を手伝っていた。
城の狸吉郎は、なかなかやって来ないさぎり姫の事を想い、寂しい唄を歌っていた。
そんな狸吉郎を呼ぶ声が下から聞こえる。
それは、狸吉郎の部屋の外にいたきぬただったが、狸吉郎は「うるさい!」と怒鳴り返すだけ。
それでもきぬたは諦めず、狸吉郎の気を惹こうと唄を歌い始めるが、又しても、狸吉郎から「うるさい!」と怒鳴られてしまう。
苛ついた狸吉郎は「若君様」と、又声をかけられたので、「うるさい!下がれ!」と癇癪を起こすが、叱られたと想い、泣きながら出現した狭霧姫の姿を見ると、謝罪して、そなたの為に狸祭りが待っている。行こうと、優しく誘いかけるのだった。
城内には、色々なものを売る店が並んでいた。
紙風船、人形、羽子板…
狸吉郎は、それらを全て、さぎり姫に買い与えると、あの梅林で羽子板を始める。
羽が梅の枝にひっかかってしまい、狭霧姫が泣いているのに気づいた狸吉郎は何事か富をよせて来るが、狭霧姫は、あまりの幸せに泣けました。私のような卑しいものが、生涯で一度だけでも、このようなすばらしい出来事を味わえるとは…と感激して答えると、それなら、生涯に一度だけではなく、今後は生涯、幸せになるよう、今日からそなたを、私の許嫁としようと狸吉郎は言い出す。
その言葉に呆然とする狭霧姫を見た狸吉郎は、狸と生まれたばかりに、そなたにも疑われてしまったのか…、この狸吉郎の心は一つ…と、腹鼓を一つ打ち鳴らし、我が身の不幸を嘆いてみせる。
その時、又しても、暁の鐘が響いて来た。
狭霧姫は、昨夜同様、あわてて階段を下りると、ちょうどそこに来かかった姉のきぬたとぶつかってしまったので、姉さん!と叫んで逃げ出してしまう。
その声を聞きとがめたきぬたは驚いて、城から飛び出して行く狭霧姫を不思議そうに見る。
帰宅したきぬたは、鶏を食べ過ぎて腹痛を起こし寝込んでいた母親おたぬを発見する。
一体、お黒の奴はどこにいるのかしらと呟いていると、自分が知っていると台所の方から声がするではないか。
行ってみると、水瓶の中に浸かったぶく助だった。
何でも、沼の水が涸れて来たので、しばらくここに置いてくれと云う。
きぬたがお黒の居場所を尋ねると、夜露に濡れて宿無しですとぶく助は教える。
翌朝、五六左衛門は上機嫌で、「♩どうじゃね?元気かね?」と、城の中を掃除する腰元たちに唄いながら話しかけていた。
今夜は、若君様のお見合いで、お相手は狭霧姫じゃと教えると、それを聞いた腰元たちは、みんな喜ぶ。
狭霧姫は、みんなに好かれていたのだ。
噂はたちまち城中に広がり、狸吉郎も嬉しそうに唄い始める。
居並んだ腰元狸たちが腹鼓でドラミングし、狭霧姫の到着を知らせると、いよいよさぎり姫が城にやって来た。
正装に着替えた狸吉郎がそれを迎える。
庭に並んだ、たくさんの琴を打ち鳴らす腰元たち。
狸吉郎が、改めてさぎり姫にぶどうの枝を手渡すと、狭霧姫は躊躇う様子もなく、いきなりぶどうで10人の小姓を出現させる。
梅林で、狸吉郎と酒を飲み始めた狭霧姫は、うぐいすが鳴いていると狸吉郎に言われると、「まあ、高慢ちきに泣いたりして…」と不機嫌になり、持っていた杯の酒を梅の枝に留っていたうぐいすに浴びせかけてしまう。
腰元たちは、今日の狭霧姫の様子はいつもと違うが、やはり許嫁になったので遠慮がなくなったのだろうと言いながら、酒肴の追加を運んでいた。
すっかり酔った狭霧姫と狸吉郎は、音の出る階段でふらつきながらも「桜」のメロディを奏でる。
その直後、階段の下によろめいてうずくまった狭霧姫が泣いているので、どうしたのか?と狸吉郎が近寄ると、許嫁は許嫁、まだ奥方ではありませんと言うではないか。
それを聞いた狸吉郎は、明日にでも婚礼をすると言いながら、愛しい狭霧姫を抱きしめるのだった。
その時、又しても、暁の鐘の音が響いて来るが、その夜の狭霧姫は、どうした事かいつまでも帰ろうとしなかった。
それもそのはず。本物の狭霧姫ことお黒は、ぶく助と一緒に、白木蓮の巨木の下で縛り付けられていたのだ。
城にいた偽狭霧姫は、帰りしな、腰元たちが打つ腹鼓に眉をしかめ、今後は腹鼓は全廃よと言い残す。
森に戻って来た偽狭霧姫はきぬたの正体を現すと、数人のヤクザ狸たちを出現させ、お黒を始末するよう依頼する。
狸汁にでもしておしまいと、残酷に云うのだ。
縛られていたお黒の元にやって来たヤクザ狸たちは、刀を抜くと斬り掛かろうと近づくが、その時、突然大風が吹き始め、その風に当ったヤクザ狸たちは倒れたまま動かなくなってしまう。
白木蓮の精の声が響く。
「やよ、お黒!城へ急げ!明日はそなたのめでたき婚礼の日ぞよ」
翌日、狸御殿に居並んだ腰元狸や五六左衛門たちは、みんな我が目を疑っていた。
何と、二人の狭霧姫が、静々と並んでやって来たからだ。
そこに出現した狸吉郎は、二人を立ち止まらせると、ここに消魔の鏡があると、大きな鏡を二人の狭霧姫に見せると、正しきものはこの鏡の前に出てみよと命ずる。
驚いた二人の狭霧姫だったが、先に右に立っていた狭霧姫が、私が偽物ですと謝り、鏡の前に立つことだけはお許しをと土下座する。
その様子を横目で見ていた左側の狭霧姫は、「もう良いよ、お黒ちゃん」ときぬたの姿を現す。
それを見ていた狸吉郎は、悪いことは出来ぬ。この鏡は消魔の鏡でも何でもない。そなたは、自分の良心の鏡で正体を現したのだと、きぬたに言い聞かせる。
それを聞いていた右の狭霧姫も、私も偽物でございます。私はカチカチ山の貧しいお黒でございますと打ち明けるが、狸吉郎は、わしは、そなたの身分や美しさに惹かれたのではないと言いながら、きぬたに、そなたはきれいな宝石を身に着け着飾って入るが、女として大切なものを忘れておるぞと言い聞かす。
きぬたは、忘れておりました。女として一番大切なもの、女らしさを…と、素直に反省する。
すると、お黒も又、私も自分お幸せの為に忘れておりましたと言い出す。
「お母さんの幸せを…」
その後、城に義母のおたぬの手を引きやって来るお黒の姿があった。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
戦時中に作られたオペレッタファンタジー。
ストーリーは、誰が考えても、「シンデレラ」の翻案であることは分かるはず。
さすがに、時代を感じさせる音楽の古めかしさは隠しようもないが、ラストのオチに至るまで、全編しゃれたアイデアに満ちあふれ、戦争中に作られたとは、にわかに信じられない程楽しい作品だ。
出演者の大半は女性陣なのだが、中でも、お城の若様に宮城千賀子、河童のぶく助には若き日の益田喜頓など、意外な主演者の顔ぶれにも驚かされる。
ドングリ林の栗助を演じているのは、「イヨマンテの夜」などのヒット曲で知られる往年の人気歌手伊藤久男である。
本作で唄っているのは、1940年のヒット曲「高原の旅愁」
余談だが、箏曲指導として「東トン子」の名が出て来るが、この人は、本作で狸吉郎を演じた宮城千賀子が作った実写版「サザエさん七転八起の巻」(1948)で主役サザエさんを演じた東屋トン子のことではないだろうか?
戦前の日本の大衆演劇や音楽が、いかに楽しいものであったかをうかがい知る事ができる貴重な文化的遺産であるともいえよう。
機会があったらぜひ観てもらいたい、邦画の娯楽映画の原点ともいえる一本。