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宇宙飛行

作品が始まるや否や、この作品が「無声映画」であるのに気付き、ちょっと戸惑う。
音楽は入っているのだが、俳優たちのセリフは入っておらず、シーンの間に字幕カットが入る形式。
それもそのはず、この作品、1946年…というから、戦前のソ連製映画なのである。
さすがに、こういう古い形式では退屈するだろうと思いきや、あまりの出来の良さに最後まで目が離せない事になる。
月旅行を目指し、大規模なロケット発射施設が作られている。
その開発者は、ひげだらけの博士、その姿はまるで「初期手塚治虫まんが」に出てきそうなキャラクターである。
いや、この作品世界全体が、初期手塚ワールドそのまま…といいたくなるようなイメージなのである。
クラシックカーと、未来的な施設。
流線形のロケットにレトロな宇宙服。
元気な少年主人公と、かれが発明した小道具…。
若い頃の手塚氏が、この作品を観て影響を受けている事は疑いないのでは?…とさえ思えるくらいである。
月旅行に反対するライバル教授から、妨害工作を依頼される乗組員の弟(ボーイスカウトの少年)。
美しき女性。
そして、ひげ博士の3人だけが、結果的に巨大ロケットに乗って出発する事になる。
ストーリー自体は単純で、全体的に、わりと楽観的な作りになっているのだが、とにかく、精巧なミニチュア、大掛かりなセット、そして、手間の掛かる「人形アニメ」などの出来映えが目を見張らせる。
宇宙船内での無重力状態などもきちんと描写してあり、月での表現も、作られた時代を考えれば、驚くほど科学的な推測をベースに再現されていると思える。
とにかく、セリフがなくても、1時間以上も画面に集中させるだけの「美術的面白さ」がぎっしり詰まっており、その技術力の高さに驚嘆する事請け合いである。
SFファン、特撮ファンには必見の古典名作だと思う。