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幸福の黄色いハンカチ

海援隊デビュー後、今一つパッとしなかった新人歌手、武田鉄矢と、任侠路線ブームの後、やや役柄に行き詰まっていた感のある、東映スター高倉健両名を、見事に光り輝かせた、山田洋次監督快心の1977年度、松竹作品。
女に振られ傷心の欽也は、心機一転とばかりに赤い車を購入、北海道に旅行に出かける。
そこで、出会った朱実(桃井かおり)とたちまち意気投合。
二人は一緒にドライブを続ける事になるが、やがて、ムショ帰りの一人の中年男性(高倉健)と知り合う…。
元々、脚本段階から、高倉健をイメージして造形された…とされるこの中年男性は、不器用ながらも誠実な生き方をして、ようやくつかみかけた小さな幸せ(家庭)を、ふとしたきっかけが元で崩壊させてしまう事になる。
そうした事情を聞いた二人の若者は、徐々に、この中年男の最後の希望の印(もし、今でも、かつての妻が男を待っているのなら、黄色いハンカチを家の前に飾っておいて欲しい…)を確認させるため、かつての家へ男を連れていく決心をするのだった…。
山田洋次お得意の「人情話」なのだが、広大な北海道の風景の美しさと、見るからにもてない男役を演じた、武田鉄矢のはまりっぷりも相俟って、全体に明るく、それほど嫌みな感じはない。
他社のスター起用を快く思わなかった…とされる、当時の松竹首脳を説得し、天下の高倉健をこの役に配した所に、この作品の成功の大きな要因がある事は疑いないが、ポッと出同然の武田鉄矢の資質を見抜いた、山田監督の眼力にも敬服させられる。
この作品がきっかけとなり、武田はその後のライフワークとも言うべき、テレビの当たり役「金八先生」役を得る事になるのだから…。
桃井かおり、倍賞千恵子、渥美清ら、ベテラン陣の手堅い演技も、話をしっかり支えてる上で欠かせない要素だが、たこ八郎などの意外なゲスト出演までも、実に巧みな使われ方がされているのに感心させられる。
あまりにも有名なラストシーンは、「お約束」的な納め方とは分かっていても、やはり何度観ても、名シーンというしかないだろう。
山田洋次監督といえば、「寅さんシリーズ」のイメージしかない人たちには、ぜひとも素直な気持ちで観てもらいたい、邦画を代表する名品の一本である。