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野良犬

1949年度、新東宝作品。
黒澤明初期の傑作の一本である。
夏の熱い日、バスの中で拳銃を奪われた事に気付いた若い刑事(三船敏郎)は、必死で犯人捜しを始める。
しかし、手がかりはなく、途方に暮れる中、ベテラン刑事(志村喬)と、地道な捜査を重ねる事になる。
今、ハリウッド映画などでは、個性の異なる2人がカップルを組んで事件を解決していく「バディ(相棒)もの」と呼ばれるジャンルがあるが、本作が、その原点に当たるのではないか…という指摘さえある。
モノクロ作品ながら、巧みな画面構成や照明効果による茹だるような暑さの表現が、焦る刑事側のみならず、事情を聞かれる貧しい人々らの閉息感、さらには犯人側の不安定な心理さえをも暗示させるような、巧みな演出になっており、若き黒澤の卓越した才能に圧倒される。
ラスト、犯人を追い詰めた刑事が、森の中で格闘するシーン、美しい風景と遠くから聞こえるのどかな音楽の音色が、逆に場面の緊迫感を強調する演出感覚も見事というしかない。
戦後間もない時代の「貧しさ」「哀しさ」が背景として描かれており、単なる「娯楽サスペンス」を超越した「ヒューマンドラマ」としても見ごたえがある。
後年の「天国と地獄」と並び、黒澤現代劇を代表する、紛れもない傑作といえよう。