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風の又三郎

宮澤賢治原作「風の又三郎」の映画化作品は何本かあるが、これは1940年度の日活作品。
夏休みが終わり、2学期最初の日に初登校した小学生たちは、村の分校の教室に見知らぬ少年が座っているのに驚く。
着物姿の田舎の子供たちにとっては、洋服を着ている三郎の姿は、「外国人」とも、風の神様の子「風の又三郎」とも疑うのだったが…。
その少年は、北海道から転校してきた高田三郎といった。
その日から、不思議な雰囲気を持つ三郎と村の小学生たちの奇妙な付き合いが始まるのだった…。
原作の雰囲気を良く生かし、本当の広々とした田園風景と、子供たちによる飾らぬ演技によって、観ていて清清しいファンタジーとも現実ともつかぬ、物語世界に引き込まれていく。
全体的に、奇を衒ったような部分がなく、子供たちの素直な表情と動きを淡々と追った演出には好感を持つ。
物語中盤、馬を遊びに利用しようとした三郎のアイデアが思わぬ騒動を引き起こす事になるのだが、この辺りの、馬の動きをうまく生かした動的な画面展開から、やがて、一人の少年が森に迷い込み、幻想を見るシーンに繋がる辺りのテンポは、実に見事で感心させられる。
戦前の作品ながら、今観ても退屈するような事もなく、今では失われた児童映画の豊かさ、暖かさをじっくり味わう事ができる名作と思える。
ちなみに、6年生の一郎役は、大泉滉。
むしろ、現在の大人たちに観てもらいたい。